第五部 第四章 9 ーー 締めつける絶望 ーー
三百一話目。
三百話を超えたところで、この内容?
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視界に飛び込むのは殺風景な牢屋の光景。
光も遮断され、湿気が漂う空間。
連行されたのはヘギの国の領地のどこか。
自分はアイナの囮になれば、と覚悟していたけれど、本当に襲撃を受けるとなんて……。
ここに閉じ込められ、思い続けてしまうのは一つ。
アイナは無事に逃げ延びてくれたの。
ミサゴはアイナの元に辿り着けたの?
かなりの傷を負っていたけれど、大丈夫なの。
イカルは?
彼も私を最後まで抵抗してくれていたけれど……。
私ってみんなに迷惑ばっかりかけてるな……。
牢屋の隅で座り込むしかできず、膝を抱えてしまう。
少しでも気が緩めば、涙が零れそうで辛かった。
捕まった日からそんなことばかり考えてしまう。
このまま気持ちも沈み、暗闇のなかに埋もれていきそうだったけれど、心優しい人のおかげで気持ちを保てた。
看守のヒヤマ
。
ヒヤマには本当に感謝している。
今となれば罪人である私に気さくに話してくれたのだから。
そして、私が捕まって六日。
鉄柵の向こう側に現れたヒヤマの様子に、瞬きを繰り返してしまう。
ヒヤマの表情は青ざめており、さっきから私と目を合わそうとしてくれない。
どこか、ここに訪れることを拒んでいるようで辛そうだった。
「……どうかしたの?」
脅えるヒヤマに問うと、一度顔を上げてから、また頷き、何か躊躇して口元をモゴモゴとしていた。
「ヒヤマ…… さん?」
「……すまない」
ヒヤマはまた頭を下げた。
「何かあったの?」
先を促すのだが、やはりヒヤマは躊躇する。
しばらく悩んだ後、
「戦争が起きた」
「ーーえっ?」
短く冷淡な言葉に声が詰まる。
心臓がギュッと締めつけられる。
「そんな、嘘。なんで?」
信じられず立ち上がってしまう。
「そんな、なんでそんなことに。アイナは…… だって、あの子を国は狙っていたんでしょ。あの子が捕まらなければ、戦争は起きないはずじゃ。ヘギが? それともムギが捕まえたのっ」
あの子にはセリンがいたはず。
だったら、大丈夫なんじゃないの?
焦りが強まり、狂いそうになる。
思わず鉄柵を掴んで叫んでいた。
だが、ヒヤマは顔を逸らした。
「ーーアイナに何があったのっ」
まるで触れられたくない態度に、背筋が冷たくなり、息を呑んでしまう。
「開戦となった荒野に、テンペストが襲ったらしいんだ」
「ーーテンペスト?」
「これまでになく規模がでかかったらしい。数万といった兵がほとんど呑まれたらしい」
顔を背けたまま話すヒヤマ。それでも引っかかる。
「ねぇ、それになんでアイナが関係あるの? アイナは戦争とは関係ないじゃない」
アイナの行方が知りたいのに、話が逸れていきそうで、どこか責めてしまう。
すると、ヒヤマはかぶりを振る。
「数えるほどの生存者がいたらしい。奇跡的にな。そいつらが言うには、一人の女の子が戦場に現れたみたいなんだ。そして、踊っていたらしい」
踊り……。
「そして、すべてテンペストが奪っていったらしい」
鉄柵から手が放れた。
ヒヤマが嫌になっていく。
嫌いになりそう……。
そんな嘘を言わないで。
そんなの嘘。
力なく後退りしてしまう。
「……噓よ。そんなの……」
壊れたように声が詰まっていく。
足がもつれ、その場に崩れ落ちた。
涙が頬を伝う。
「……アイナが死んだ?」
ちょっと辛いかもな……。




