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忘却のテンペスト  作者: ひろゆき


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 第三章  5 ーー 遭遇するもの ーー

 二十九話目。

 あぁっ、早くシャワー浴びたいっ。

            5



 深い森に入って、二日目になっていた。

 アカマに教えられた町はまだ先にある。

 この森を抜ければ別の町があるのだけど、あと少しがとても長い道のりになっていた。

 さすがにずっと歩いていると疲れ、肩から背負っている荷物も重い。


「やっぱ、デネブは遠いね。早くお風呂に入りたい」

「それはわかる。もう髪もベタベタで、気持ち悪いしね」


 空を見上げると、木々の隙間から射し込む陽光が傾きかけている。

 早くしないと、今日も野宿になりかねない。それだけは勘弁してほしい。

 ついさっき、変な場所に出ていた。


「ここで休むってわけにもいかないからね」

「にしても、ここってなんなんだろうね」

「わかんない。何かの遺跡? 忘街傷じゃないもんね」


 木々を抜けた先にポツリと空間が空いていたのだけれど、そこに大きな岩が転がっていた。

 異様に見えたのは、転がっている岩が自然に放置されたのではなく、円柱状に整形されていたからである。

 それはどこかの柱みたいに、波みたく彫刻されている岩や、四角切り取られた岩ばかりが落ちていたのである。

 どこかの建物の一角にあってもよさそうな石柱らに疑問が強まる。


 なんでこんなとこのに、と。


 そもそも、これらはここに捨てられたようにさえ、見えてしまった。

 早く町に行きたいのだけれど、疲労が意識を遮ってしまい、ついそばにあった細い石柱に腰を下ろしてしまう。

 続けてアネモネも座るだろうと思っていると、アネモネは座らず、さっき抜けた木々の奥をずっと眺めていた。

 微動だにしないアネモネに不穏が強まり、立ってそばに寄った。

 釣られるように木々の奥を睨んでみた。

 昼間だというのに、木の影に沈む道は漆黒。つい目つきも険しくなる。

 刹那、鼓膜が風によって揺れた。


「……いるよね」

「うん…… 多分、馬の足音だよね」


 不意にメガネを外して見据えるアネモネ。

 二人して警戒心を強めた。


「……あの連中かな?」

「どうだろ。隠れて待ってみる?」


 近づいてくる、と肌が身震いしそうなのを堪え、辺りを見渡す。

 この場に身を隠す場所はどこにもない。

 森に入って木に隠れる? それとも。


「ううん。近くに“アルテバ”って町があるみたいだし、そっちに行こう。今の感じだと、まだ近くに来ていないだろうし、早く町に入った方が人に紛れて逃げられそうだし」

「ーーだね」


 刹那、座っていたそばに置いたケースを背負った。

 アネモネもメガネをかけ直すと、木々の影に伸びた道を駆けた。


「なんか、逃げるのも楽しくなってくるね」

「何、言ってんの。早く森を抜けるわよ」


 ふざけるアネモネを嗜め、より足に力を込めた。




 アルテバ


 思いのほか、早く町に逃げ込めた。

 町は思った以上に繁栄していることに、驚きは多少あった。

 地面は基本的に石畳になっていて、建物もレンガ造りの家が建ち並んでいた。

 通路脇には花壇が設けられ、季節の花が彩られている。

 子供が走り回って遊んでいるのを見ると、治安はよさそうで安堵した。

 これならば、宿屋で食事も期待が持てる。


「どう? 馬の足音、近づいてる?」

「ううん。大丈夫だと思う。この町には来そうにないみたい」


 平静を装いつつ、アネモネに聞いてみる。アネモネも観光を楽しむように店先を眺めて答えた。

 あとは宿屋を見つけて、ほとぼりが冷めるまで隠れておくだけ、と。

 まぁね。

 でも、今は逃げるのみっ。

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