表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
忘却のテンペスト  作者: ひろゆき


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

288/352

 第五部  第三章  3  ーー  憂う気持ち  ーー

 二百八十八話目。

   動けないにしても、何か情報は欲しいわね。

            3



 確証なんてない。

 ううん。むしろ、自意識過剰だと罵られても仕方がない。

 やっぱり幻で見たヒヤマよりも、眼前のヒヤマの方が少し歳を取っていたとしても、同一人物に見える。

 だからつい疑ってしまい、レイナの顔を見てしまう。

 するとレイナは真剣な眼差しでヒヤマを眺めている。


 やっぱ、気づいているんでしょうね。


 でも、話せるわけないわよね、そんなこと。


「ごめんなさい。立ち入ったことを聞いてしまって」


 ここは素直に引き下がっておくべきでしょうね。


「いや、私も勝手に話を進めてすまなかったね。昔話を聞いていても退屈だってことを忘れていたよ、悪かったね。ただ君たちのように、祭壇のそばに人がいるとわかると、つい話しかけてしまっていたよ。申し訳ない」


 苦笑するヒヤマは、やはり全身から寂しさが漂っている気がしてしまう。


「何か事情でもあるんですか?」


 ヒヤマが醸し出す寂しさに、レイナが口を開いた。


「いえ。ただ祭りのことをどう思っているのかが気になってね。君たちのように犠牲となった人を憂いて、祭りに疑念を持ってくれる人ばかりじゃないんだ」

「でしょうね」

「悲しいことにね。なかには、生け贄にされた者を侮辱する人もいる。そうした人らに、祭り、いやいけがどれだけ無意味であるかを話して回ろうと思って、数日前にここに来たんだ。だから、君らに会えてよかった」


 それまで声に霧がかかったみたいに弱かったヒヤマの声は、どこか覇気をまとったみたいに強く聞こえた。でもーー


「でも、それって辛くないですか?」


 疑問を出すと、ヒヤマはキョトンとしていた。


「悲しいですが、祭りには生け贄を捧げる風習が大半です。なかには踊りを捧げるだけ、という地もあるらしいけど、それも稀。厳しい言い方ですが、生け贄に疑念を抱くこと自体が異端。ましてそれに異を説いて回るとなれば、風当たりも冷たくなりそうなんですが」


 冷淡とした疑問が静かに響いた。


「そうでしょうね。でもそれも致し方ないでしょう。でも実際、祭りを行ってもテンペストが完全に治まったわけではない。自己満足だと唱えるつもりです。非を受けるのは覚悟の上でね。それは昔、友人を助けることができなかった私の責任。辛くても受け入れるべきだと考えています」


 ヒヤマは自分の胸にそっと手を当て、今の境遇を受け入れるように唇を強く閉じた。


「強いんですね」

「いえ。世界のためにと自らを捧げた彼女らに比べれば私は。これは独りよがりにすぎないかもしれませんがね」

「立派だと思います」


 あくまで謙遜するヒヤマに嘆願の声がもれてしまう。

 本当にこんなことを考えている人がいることが私も嬉しかった。


「私も聞いたことがあります。世界で最初に生け贄となった子は、自分だけが犠牲になることで、世界の苦痛が消えてくれれば、と誇りを持って命を捧げていたと。きっとあなたは間違ってないと思います。その人も今のところ状況に嘆いていると思いますから」


 気のせいか、レイナは一歩踏み込んでいるように見え、それまで思い詰めたように曇っていたけれど、頬を緩めてヒヤマに声をかける。


「だから、あなたも自分を決して責めないで下さい」

「そうか。そう言ってもらえると、少し自信が持てます。ありがとう」

 確かにね。

   僕らには何もわからないからな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ