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忘却のテンペスト  作者: ひろゆき


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 第四部  七  ーー  溢れてくるもの  ーー

 二百六十七話目。

  いいところを全部、ローズに取られてる気がする。


 コップに水を汲んでいく。

 満杯になっても注ぐ手を緩めない。

 限界を超えたコップからは、透明な水がドボドボと音を立ててこぼれ、辺りを濡らしていく。


 それまで知らなかった記憶、忘れていた記憶を無理矢理思い出さされるのは、そんな感じに似ていた。

 昔を懐かしむような楽しさなんてない。

 両手で誰かに頭を押さえられ、押し込まれている様は、苦痛以外、何ものでもなかった。

 コップに入れず、こぼれた水は拭き取られればなくなる。

 それと同様に、許容範囲を超えたり、必要とされない記憶は、痛みと同時に消去されていった。


 そして過去の一部の記憶と、現在の記憶が混同した意識のなか、目を覚ますこととなった。


 決して気持ちよくなんかない。


 目が覚め、突き詰められた自分の情けない姿が惨めで、腹立たしさしかないし。

 全身を包帯で巻かれ、どこかの病院のベッドの上に横になる。


 それが、これまで恐れられていたローズ様の姿だっていうの?

 本当にムカつく。


 あのとき、テンペストに襲われた?

 それって不老不死になったんじゃないの?

 死ななくても痛みは伴うっていうの?

 なんて中途半端な体なの。


 バカらしい。


 これで私は死ぬことはない?

 だったらこの先どうする?


 消えてくれない疑問符。

 誰も答えてなんてくれないのね。


 だったら、この世界の行く末を楽しませてもらうわ。


 偶然再会したリナリアに笑って突きはねてやった。

 この惨めな姿見られた苛立ちも当然あったけれど、それぐらいの楽しみはあったっていいじゃない。

 戦争が起きようとする瞬間の光景なんかを思い出さされてしまったんだから。


 きっとテンペストは消えない。

 私みたいに苦しむ連中も生まれるでしょう。

 だったら楽しませてもらうわ。

 リナリアたちに言ったのは苦しみから放った強がりではない。


 強がりじゃない……。

 じゃないけれど……。

 そう怒るなって。こればっかりはな……。

 

 これで、七章は終わりなんだし。

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