表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
忘却のテンペスト  作者: ひろゆき


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

264/352

 第四部  第七章  2  ーー  患者  ーー

 二百六十四話目。

   やっぱり、私らって振り回されてるわね。

           2



 病院と呼ばれても、ナルスの病院は民家三軒ほどのこじんまりとした木製の建物。

 お世辞にも、重傷の患者の診療を行うには設備不足に感じてしまう。

 そんな病院にいるというなら、助かった人がさほど重傷ではないのだろうと、胸を撫で下ろす。

 しかも、面識のない僕らが患者に会わせてくれ、という無茶をしてまった。

 医者も最初は訝しげに邪険に扱われたのだけど、しぶとく頼み込んでみると、なんとか数分だけ、と面会を許された。


「どんな人なんだろな」

「さぁ? テンペストについてって聞いたら、変に思われるかもしんないかもね」


 半ば冗談をこぼしながら、噂の人物がいる病室に向かう。

 扉を叩くと、「はい」と穏やかな声が届いた。


「すいません。失礼します」

「ーーっ」

「ーーっ」


 病室に一歩踏み込んだとき、言葉が飛んだ。

 病室は院の外壁に比べ、白い壁に囲まれ、陽が射し込む部屋の隅にベッドがあった。

 そこに腰かけた女がいる。


「……なんであんたがここにいるのよっ」


 足が竦んでしまう。


「あら、あなたたち」


 その冷徹な声に背筋が凍り、拳を強く握ってしまう。


「……ローズ……」

「何してんのよ……」


 病室のベッドに腰かけていた女性。


 ローズだった。


 人違いでも、他人のそら似でもない、奴が目の前にいる。

 全身から拒否反応が出てしまい、奥歯を噛み締め、声が掠れてしまう。

 ローズの変わらない狡猾な笑みに迎え入れられ、体が硬直してしまった。


「なぜって? ここでそれは愚問でしょ。私は病人だからここにいるのよ」

「ーー病人?」


 皮肉に眉をひそめると、ローズの姿に驚愕する。

 ローズの顔には包帯が巻かれていた。頭部から左目を隠すように斜めに巻かれている。

 目を傷つけているのか、包帯は顔だけでなく、着ている服の裾からも包帯が覗いており、その傷は全身に渡って広がっているのが容易に想像できた。


 本当なのか?


 僕はこいつのせいで死にかけた。

 まだそのとき、平然と笑みを崩さないでいた姿が頭に残っている。

 必死に震えを堪えるほどの恐怖が体を支配しそうなほどの、狡猾な奴だったのに。

 そいつが重体? 

 信じられなかった。


「……お前、テンペストに襲われたって聞いたけど、本当なのか?」


 状況が信じられず、言葉とは裏腹に、身構えてしまう。


「へぇ。こんな状態にも、そうして脅えてくれるんだ。光栄ね。それとも、それだけあなたたちが弱いってことかしら」


 こちらの警戒とは裏腹に、ローズは整然として攻撃の素振りは見せない。

 どこか拍子抜けの様子に困惑してしまう。


「どんな姿になっても嫌味だけは忘れないなんて、さすがね。でも惨めね。そんな情けない姿で生き恥をかくなんて。あんたにとっても限界なんじゃないの?」


 負けじとリナも嫌味で返した。

 それをローズは正面から受けることはせず、鼻で笑った。


「本当にテンペストにやられたのか?」


 二人のやり取りに圧倒されつつも、つい割り込んでしまう。


「テンペスト? あぁ、結果的にはそうなるかもしれないわね。私はテンペストに負けて、あの子に負けたわけじゃないって思いたいわね」

「あの子? あの子って誰だよ?」


 瞬間、ローズに睨まれてしまう。

 やはり狡猾さは衰えていない。


「はぁ? 何言ってんのよ。あんたの横にいて、私にやけにケンカを吹っかけてきていたでしょ」

「それって、エリカ?」

「まったく。なんであんなクソガキにやられなきゃいけないのよ」


 悔しさを滲ませ、天を仰ぐローズに不安が積もる。

 あいつが? なんで?


「……あいつがお前を? そんなどこで…… あいつが。どこにいたんだ。あいつは、エリカはどこにいたんだっ」


 嘘? 冗談? こっちを惑わそうとしているのか?

 わからない。けど。


「教えろっ」

「っさいわねっ。なんで私がいちいち言わなきゃいけないのよっ。殺すわよっ」

「ーーっ」

「それにそもそも何? エリカって? あのクソガキ、「レイナ」って呼ばれていたわよ」

「ーーレイ…… ナ?」

 こんなことって、あるのかよ……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ