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忘却のテンペスト  作者: ひろゆき


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 第四部  第六章  10  ーー  アネモネの雰囲気  (2)  ーー

 二百五十九話目。

  なんなの、これ……。


「どういうことっ。なんであんたが私にっ」


 リナの悲鳴が飛ぶ。

 リナの訴えがアネモネに届く前に、大剣の振り落としによって跳ね返されてしまう。


 なんでこうなった?


 疑問に答えが導かれる前に、争いは起きてしまった。

 果敢に襲いかかるアネモネ。

 自分の体の一部として振り回しながら、容赦なくリナに斬りかかる。

 リナは戸惑いながらも刃を避け、またはナイフで受け流していく。

 互いに俊敏に地を跳び、刃が交わっていく。

 蜂みたいに跳び、火花を散らしていく。


「なんで、私らが戦わなきゃいけないのっ、アネモネッ」


 大剣を受け流してリナは叫ぶ。


「リナッ、なんであんたは私の邪魔をするのっ」

「私が邪魔? 何言ってんのよっ」

「私は私でいちゃいけないのっ。私はアイナにならなきゃいけないっ。そのためには…… でも、あんたがそれを止めようとする。私が私でいるようにっ。だから、消えてくれない」

「はぁっ? あんたはあんたでしょっ」


 なんだろう。きっとこの二人に大した差はないと思っていた。

 でも、見る限り、アネモネが優位に見えてしまう。

 さっきの踊りのような隙のない動きではなく、大剣を生かした大振りになっており、それをすんでのところで、リナは受け流している。

 武器の大きさのせいか、リナが追い詰められているように見えるけれど、アネモネが追い詰められているようにも感じる。

 いや、それだけリナが動揺しているんだ。


「それじゃダメなのっ。私は…… リナの存在を消さないといけないのっ」


 リナを消す? 意味がわからない。

 確かにアネモネの一撃は命を奪うそのものだが、アネモネの一振りにどこか迷いが滲んでいる。

 大剣を真横に振り切ったとき、アネモネの目は赤く充血していた。

 どこか本人が苦しんでいるみたいに。

 一方的な戦闘ながら、どこかでアネモネが押されている気がしてならない。


「なんなのよ、それっ」

「ーーっ」


 刹那、リナの右脚がアネモネの脇腹を捉える。

 そのまま宙に飛ばされるが、すぐさま反転し、着地する。


「意味わかんないわよっ。どういう意味よ、それっ」


 片脚を上げながらリナが怒鳴る。


「リナ、あんたが私を惑わせてるのっ。私はあんたに甘えちゃいけない。だから、あんたを殺すっ」

「ーーっ」


 脇腹を押さえ、叫ぶアネモネ。その頬は濡れている。

 でもそれは……。


「私を殺す……?」


 話を聞いていたリナは、全身から力が抜け、呆然と立ち竦んだ。


「なんで?」


 リナは震えそうになりながら問いかける。頬を緩めながらも、泣きそうでいて、寂しそうに目尻を下げて。


「リナ、あんたが私のお姉ちゃんだからよ……」


 アネモネは強くかぶりを振り、声を震わせ、


「ーーだから」


 まるで決意を強めるように叫喚し、大剣をリナに向ける。


「……私が私でなくなるためにっ」


 アネモネは大剣を構え直し、深く息をこぼした瞬間、リナへと飛びかかる。

 大きく振り上げた大剣は振り下ろされるのと同時に、リナの少し見上げた顔を捉えようとする。


「……なんで…… 私がお姉ちゃんだったらダメなのよっ」



 ……あなた、面白いことを言うのね。



 刃がリナに振り下ろされるとき、どこからともなく女の声がした。

 誰の声、と困惑が襲いそうななか、雷鳴が辺りを包む。

 町の光景が光に包まれたとき、リナとアネモネの先に一つの景色が広がる。


 どこかの牢屋らしき光景。

 鉄格子を挟み、こちらを向いた男女の姿を捉える。


「……レイナ?」


 アネモネの震えた声が木霊した。 

 

 こんなの間違ってるはずなのに……。

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