第四部 第六章 4 ーー アカギの判断 ーー
二百五十三話目。
私たちのお使い。
これで終わりなのかな?
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耳を疑い、目を剥いてしまう。
聞き間違いかと眉をひそめるけれど、アカギは毅然とし、僕を見返してきた。
「あんた、本気で言ってるの」
呆然としたリナが思わず声を荒げるが、アカギは気にもせず、椅子に深く凭れた。
「あんた…… 見捨てるの?」
驚きがつい厳しい口調になり、アカギを責めてしまう。
「お前、隊長に対してなんだ、その言い方はっ」
するとそれまで静かに状況を見守っていた若い兵が声を荒げる。
「アオバ、構わん」
そのまま詰めようとする若い兵をアカギは制し、また僕を見据えた。
ここで負けては、先生に顔向けできない気がして、逸らさなかった。
逃げずにいると、根負けしたのか、顔を背け、おもむろに立ち上がると、そばにあった窓から外を眺めた。
「実は今、この町では“蒼”の兵によって襲われているんだ」
「はぁ? いや、それってお前たちの仲間じゃないのか?」
唐突な話にリナと顔を見合わせ、呆然としてしまった。
「我々がこの町に到着したのは八日前のことだ。やけに我々に対する住民の反応が刺々しくてな。異変に気づいて調べようとしたときだ。町が襲撃を受けたのは」
「それが“蒼”だってのかよ。でもなんでだよ」
「わからなかったんだ。捕まえた兵を追求しても口を割ろうとせず困っていたんだが、なるほど。この書状を読むと理解できたよ」
「じゃぁ、それってイシヅチの部下ってことなの? それって完全にクーデターじゃん」
驚愕するリナ。
刺激を与えそうな態度に驚いたけど、それを見たアカギが反抗せずに黙ってうつむく様子からして、図星らしい。
「この町に滞在しているのは俺たちの部隊だ。君たちに敵対的な態度でいたのは、その緊張感からだ」
「じゃぁ、なんでそいつらはこの町を狙うの?」
素朴な疑問にアカギはかぶりを振る。
「さぁ。それは俺たちにもわからん。クーデターを起こし、ベクルの制圧を望んでいるのなら、その拠点を増やそうとしているのか」
疑念に腕を組むアカギ。
結論に迷っていると、ハッカイが一歩、前に出る。
「それならば、ここの住民の命をないがしろにしかねない。だから、私たちは警護のために町に留まっていたが、そこに何度も襲撃を繰り返していたのだ」
……何度も?
捕捉するハッカイの言葉がなぜか引っかかってしまう。
「それだけここを重要視されているか、我々の部隊を脅威と見なし、滅ぼそうとしているのか」
「だったら、光栄ですね。それだけ我々を高く評価されているらしいですから」
どこか嫌味を言う若い兵。確か「アオバ」だったか。
強がっているのか、乾いた笑みを浮かべるアカギらを眺めていると、見えない違和感が張りついて気持ち悪い。
得体の知れない違和感を気にしていると、不意にまたアカギが窓の外を眺めた。
今度はどこか険しい眼差しを外に送って。
「隊長、どうかされましたか?」
「いや、どこか町の様子がーー」
不穏な態度にアオバが聞いたとき、勢いよく扉が開かれた。
「アカギ隊長っ、また襲撃ですっ」
血相を変えた若い兵が飛び込んできた。
お使いって、嫌味はそれぐらいにしとけって。




