第四部 第六章 1 ーー リナリアの存在 ーー
二百五十話目。
四部もかなり進んだんだよね。
で、私たちの出番は?
第四部
第六章
1
姉さん、レイナの様子が少しおかしい、と思える時間が長くなっていた。
いつからだったっけ。さうだ、あの祭壇を見てから。
今になってもまだ祭りが行われていることに対して、衝撃を受けているように見えた。
それってエリカの影響?
彼女が目を覚まそうとしているの?
疲れて寝ている姿を見ていると、そんなことを考えてしまう。
確か、エリカたちは祭りに対して悪い印象を持っていたはずだから。
それって……。
ふと迷ってしまう瞬間があった。
朝に目が覚めたとき、もしかすれば、姉さんの意識が消えてエリカに戻っているんじゃないか、と。
……私はそれを望んでいない。
姉さんのままでいてほしい、のかもしれない。
結果的にエリカの意識が戻っていることはない。
レイナだと知ったとき、計り知れない安堵感が体を包んでいた。
できれば、このままであってほしい、と微かな願いを胸に秘めながら、時間はすぎていた。
でも変わらないのは、レイナの眠る時間が増えていること。
今も草原で休憩を取っていたけれど、レイナは大きな岩に凭れ、束の間の眠りに入っていた。
人の気も知らないで。
優しい寝顔を眺めていると、ふと茶化したくなるのを堪え、目が覚めるのを待った。
ここには私とレイナしかいない。
セリンとミサゴは別行動していた。
ミサゴは奇妙なことを言っていたけれど、後を追うことはできないし仕方がないし。
なんか懐かしいな……。
風にゆったりと流れる雲を眺めていると、ふと昔のことが頭をよぎった。
大剣を盗んで逃げていた道中、追っ手の兵を退治すると、疲れを癒やすのにリナとよくこうして並んで休んでいた。
いつも無茶をしたリナが疲れて眠っていた。
ほっぺたを突いていても、起きないのが楽しくて、何度もやって、やがて目を覚ましたリナに怒られ、笑ってごまかしていた。
青い空の懐かしさに弾けた笑顔が次第に曇っていく。
もう昔のこと。
自分を戒めるつもりで唇を強く噛んだ。
……リナ。
捨てたはずの感傷に打ちひしがれそうになったとき、遠くで空気が震動するけたたましい轟音が鳴り響いた。
何? 雷?
咄嗟に顔を上げ、音のした方角を睨んだ。
すると、遠くの空の一部が重い漆黒の雲に浸食されていて、雲が逃げるように左右に散り散りになっている。
時折、稲光が走っていたが、嵐とはどこか違う。
「……あれって、テンペスト……」
即座に理解した。
「……まだ起こっているの? 戦争はもう終わっーー」
散ってしまいそうな小声をなぎ払うように、強風がここまで届いた。
すかさず腕で顔を隠し、風が修まって腕を下ろすと、瞬きがしばらく止まらなかった。
また場面が飛んだ。
もう慣れてはいたけれど、思わず立ち上がってしまう。
どこかの町の光景。
空気が密集し、張り詰めていた。
「……ふざけないでよ」
これが“先見”によって写し出された光景であることとわかっているからこそ、苛立ちがこぼれてしまう。
町は荒れていた。
風が吹き、砂ぼこりが舞うなか、争いが繰り広げられている。
刃物がぶつかり、火花が散った甲高い音が鼓膜を振動させる。
あれは“蒼”?
一方の精鋭は青い服を着た者であり、争いの大半がこの勢力であった。
それでも一方的に攻められてのではなく、青い集団のなかで、嵐のように青い兵を撒き散らしている存在があった。
散り散りになった青い兵によって、中心が開かれたところに現れるものがあった。
「……リナ」
中心に現れたのはリナ。そしてキョウみたいな姿だった。
多くの青い兵がリナらに立ち向かい、それをリナらがなぎ払っていた。
リナの両手にはナイフが握られている。
それは以前、私が使っていたナイフであり、メガネもかけている。
これがこの先、起きうる光景?
なんでリナは“蒼”と争うの?
なんで?
「なんで、こんなの見せるのよっ」
私の発狂は突風となり、眼前の光景を撒き散らした。
肩を大きく揺らしているなか、目蓋を閉じ、深呼吸の後に目を開くと、そこには整然とした草原に戻っていた。
もちろん、そこにリナとキョウの姿はない。
苛立ちに似た疲労感に襲われ、足腰が震えていく。
まるで全力疾走の後みたいに足が悲鳴を挙げ、力なくその場に崩れて座った。
両手を地に着け、影に揺れる草に目を落とす。
なんであんな光景を見なくちゃいけないの?
「何かあったの?」
戸惑いのなか、何気ない問いが槍みたく胸を貫いた。
どうも、僕らは諦めるしかないみたいだね。
でも、六章目は始まります。
応援、よろしくお願いします。




