第三章 1 ーー リナリアとアネモネ ーー
二十五話目で第三章……。
う~ん。リナ、私らの出番、遅くない?
第三章
1
町にある酒場はあまり好きじゃない。
いや、店の雰囲気や料理が、とかの理由じゃない。
店だけなら綺麗なところも、料理が美味しくて何度も通いたくなる店もある。
けど、そこに集まってくる男たちが嫌いなんだ。
なんの常識も理性もなく、がさつな男が多い。しかも酒が入れば、自分が世界の中心だ、と勘違いするバカがいる。
だから、あまり好きじゃない。
さらに、こちらが女だと知れば、舐めてくる奴も多い。
まったくもって不愉快である。
でも、食事ができる場所がこの町には酒場しかないので、渋々酒屋に入っているのだけれど。
カウンターの席に座り、グラスを片手にふと後ろを眺めた。
店は賑わっていた。
ほぼすべての席が埋まっており、どの席でも酒盛りをして騒いでいる客が多い。
やはりほとんどが男ばっか。ほんと嫌になる。
「リナ、食べないの? 美味しいよ」
「うん。いや、食べるけどね」
隣の席で食事をしていたアネモネが不思議そうに目を丸くしている。
もうっ。こっちの心配も気にかけてよね。
嘆きたくなる横で、銀髪の前髪を気にしながら楽しむ姿が憎らしくなる。
姉妹揃って銀髪なのはちょっと自慢でもあった。
それに左側の髪の一部を細い三つ編みにしているのも悪くなかった。
「よぉ、姉ちゃん。こっちで一緒に飲まないかい?」
もうっ。気を休めるのに店に入ったのに……。
大きく溜め息をこぼしたくなる。
やはり、女だと知って話しかけてくるガサツな男がいた。
何っ、と、威嚇も込めて横を向いた。
すると、二人の男が得意げに胸を張っていた。
どちらもゴツいゴリラみたいな顔で気持ち悪い。
自分の顔を鏡でちゃんと見ろよ。
「悪いわね。私らここでもうご飯食べてるの。ほかに行ってくんない?」
まともに話す気にもなれず、邪険にハエを払うように手で払った。
アネモネも無視して食事を楽しんでいる。
そう、無視無視。
「おいっ、無視すんなって。一緒に楽しもうや」
「そうだよ。ーーん? お姉ちゃんら旅人か? やけに大きい荷物なんか持って」
イスのそばに百五十センチほどある大きなケースを立てていたのだけど、ゴリラ男の一人が気安く触れた。
私はフッと息を吐き、席を立つと二人の男と向かい合った。
意外と男は二人とも背が高い。
さて、落ち着こう。
そこで満面の笑みを献上してやった。
すると、男の下心が丸見えな不適な笑みとぶつかる。
しかも、二人となれば余計に…… でも、
刹那。
「ーーっ」
ゴリラ男の首を右手で掴んだ。驚いた男は一瞬たじろぐ。その隙に爪を立ててより力を入れた。
本当はこんな汚い奴の体なんて触りたくなんかない。
けど、仕方がない。
もっと力を込めた。
最初は驚きながらも余裕を持って笑っていたゴリラ男の顔が、次第に青ざめていく。
苦しみ出す男。
声を詰まらせながら手をばたつかせていく。息苦しくなってきたのでしょう。 目を剥き、次第に充血していく。首筋も鬱血し、血管が浮き出てきた。
それでも容赦なくさらに力を込めると、男は私の腕を叩いてくる。
ほんと、女だからって舐められるのって嫌い。
「ーーどうしたの? 楽しむんでしょ? 楽しくない?」
目を細め、子供に向けるような穏やかな口調で、隣で慌てふためる男に畳みかけた。
驚愕する男に見せつけるため、そのまま腕を上に上げていく。
ゴリラ男の足が木の床からゆっくりと離れ、宙に浮いていく。
「ねぇ、楽しむんじゃないの?」
苦しむゴリラ男。
恐怖に頬を歪める男に静かに問いかけるが、男は壊れたみたいに強くかぶりを振っている。
「じゃぁ、私の願い、聞いてくれる?」
そこでまた力を込めた。男の腕が一瞬垂れた。
それを見て男は無様にお尻から倒れ込む。腰が抜けたのか。
「さっさと出て行って」
そこでパッと手を放した。ゴリラ男が力なく床に倒れ込むと、首筋を擦りながら、苦しそうに咳き込んでいた。
「聞こえなかった? 出て行って」
腰を丸め咳き込む男に、容赦なく浴びせる。男は口元をヨダレで汚しながら憎しみをぶつけてくる。
すると、今まで黙っていたアネモネが回転イスを回して振り向いた。
男らを楽しそうに眺め、三つ編みにした髪を弄んでいた。
「リナ、今度は“本気”出してみたら?」
「そうね」
と、右手をほぐしながら右手を開いたり閉じたりを繰り返した。
「ねぇ、出て行ってくれない?」
腰を抜かす男に警告ばりに鋭く吐くと、腰は抜けているからか、這いつくばるように、四つん這いのまま離れていく。
ゆっくりと店から逃げ出して行った。
男もヨロヨロと立ち、よろけながら、後を追うように出て行った。
本当にガサツな男は嫌い。
それにこの空気も。
目蓋を閉じた。
店内の空気が変わっていくのが肌に触れてひしひしと伝わってくる。
針でも刺さっているような鋭さで。
きっとみんな引いてんでしょ。
私みたいな女があの男を片手で持ち上げたことに。
そりゃ、私みたいな可愛くて、華奢な女があんな力を放つんだから。
ほんと、見かけだけで判断されるなんて、バカらしい。
オォォォォッ。
目蓋を一気に開いた。
アネモネ、文句言わない。順序があるのよ。
さて、今回より私とアネモネが出ます。
あの二人は……。
新たな旅の始まり。
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旅も頑張ります。




