第四部 第四章 3 ーー 忍び寄る不安 ーー
二百三十四話目。
何か大きなことが起きそうな気がする。
3
次の瞬間、勢いで本棚を殴っていた。
疑念がもし事実になっているならば、じっとなんてしていられない。
すぐさま資料室を飛び出し、爆発音の方へ駆けた。
焦りが強まるなか、騒ぎを聞きつけた兵が数人姿を現している。
すぐさま引き留め、
「今の爆発音はなんなのだっ?」
「わかりませんっ。突然のことなので」
焦りからか、自然を泳がせる兵。彼も事情を把握していないらしく、顔は青冷めてかぶりを振る。
「それが、最初に爆発があったのが武器庫らしくて、それで……」
「取り合えず落ち着け。まずは消火だ。火を鎮めることに専念するんだ」
動転する兵を宥めて指示すると、兵は壊れたオモチャみたいに何度も頷いた。
火の元は任せたとして、後は……。
まずは火元に行くべきか、と体を向けたときである。爆発のあった方角とは反対の通路から、別の破裂音が轟いた。
「なんだっ? 別の場所でも?」
いや、爆発音とはどこか違う気が……。
「おいっ、他の隊長らはどこに?」
「それが誰も…… 今ここにいるのはヒダカ様とツルギ様だけで、そのほかの隊長で居場所がわかっているのはアカギ様だけですが、遠いところに。ほかの方々は……」
兵は言い淀んだ。
行方は把握していないらしい。
まったく。アカギ殿はともかく。ローズやイシヅチという奴は……。
「わかった。君はひとまず消火に向かってくれ。今のには私が行く」
指示し、怯える兵の背中を叩き、武器庫へ向かわせた。
薄暗い廊下を駆ける兵の背中を送った後、体を反転させた。
最初に起きた爆発とは正反対の方向で起きた音。
何かがある……。
音は上階。
階段を駆け上っていたとき、不意に足が止まった。
まさか、陽動?
階段の下を眺めると、騒ぎを聞きつけ、武器庫へ向かう兵の姿が目立った。
もしそうならば、どっちが囮だ?
自然に考えれば、目立った武器庫が囮?
だがそれならば、安易すぎないか? 仮にも“蒼”の本拠地だぞ。組織の実態を知っての攻撃なら、そんなものでごまかせるとは思えない。
考えすぎなのか……。
だったら、やっぱりこちらが本命になるのか?
「クソッ。やはり一人では…… せめてツルギだけでも連絡が取れれば」
文句をこぼしながら階段を駆け上がる。
ここで迷っているのが無駄だ。
迷うよりも早く解決するべく、階段を登り切り、左右を見渡した。
音の位置を考えると右側。
体を向け、睨みながら床を蹴った。
床を蹴る響いた音に重なったのは、どこかドンッと重い物が壁にぶつかる音。
爆発とは違う重低音に、何かが崩れ落ちる音が重なった。
耳を澄ましながら進んでいると、重い音が聞こえた先から、今度は金属がぶつかる高い音が響いた。
間違いではない。と確信しつつも、眉をひそめてしまう。
甲高い音が激しくぶつかるほどに、火花らしき光も見え、小さな光がより激しくなると、光が弾ける間際、暗いなかに影が動いていることに気づいた。
まさか、誰かがーー。
刹那、目の前から黒い影が宙を舞い、私のそばに倒れ込むと、白い柱にぶつかって止まった。
「ーーツルギッ?」
咄嗟に顔をかばっていると、隙間から見えた影を捉え叫んでしまう。
すぐそばにツルが倒れていた。
右手に剣を握ったまま。
戦っていた?
ツルギが?
疑念が深まるなか、薄暗い奥から別の影が揺らぐ。
「まったく。バカげたことをしれくれるもんだね」
ちょっ、不穏なことを言うなよ。
エリカじゃないし。




