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忘却のテンペスト  作者: ひろゆき


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 第四部  第四章  2  ーー  ヒダカの危惧  ーー

 二百三十三話目。

   私たちはどこにいるんでしょう?

            2



 アンクルス。


 待っていた言葉のはずなのに、実際に目にした瞬間、手が震えそうになる。

 緊張せずにはいられない。

 何度も文字をなぞってしまう。


「……行っていた…… のか?」


 歓喜に似た熱さが胸を押し上げるなか、どうも著者が困惑しているような文に、眉をひそめてしまう。


 なんなのだ、これは……。

 自信がないのか、それとも冗談でも言っているのか?


 とはいえ、ようやく見つけた言葉。慎重に調べなければ。

 気持ちは高鳴っているのだけれど、体は素直に動いてくれず、額を指でコツコツと突き、唸ってしまう。

 私がここに留まるようになり、かなりの時間が経っていた。

 不意に顔を上げ、窓のある方を眺めた。

 遠くの景色を眺めてしまう。

 その間にも、リナらは旅を続けているのだな。

 もしかすれば、私の知り得ない情報も、取り入れたかもしれない。

 瞬間、情報交換をしたくなった。

 しかし、リナはいない。

 数日前、アカギの部下から、リナとキョウをここに連れて来たと、報告受けた。

 私の立場上、自由に行動させるわけにもいかず、拘束するよう渋々指示を出していた。

 まかりなりにも、リナは罪人扱いのままで、ツルギの面目もあったために。

 もちろん私の権限を使い、拘束を解くつまりでいたけれど、なかなか手が空いてくれず、遅れてしまった。

 先日ようやく手が空き、謝ろうと牢屋に向かったのだけれど、そこで驚愕してしまう。

 二つ並んだ牢屋は、共に空室となっており、リナらの姿は消えてしまっていた。

 まさか脱走、と啞然となってしまう。

 リナの怪力ならば、それも容易だろうし、拘束されたことを激昂し、鉄格子を蹴飛ばし、看守の者を……。

 悲惨な想像が頭をよぎってしまい、強くかぶりを振った。


 リナならば…… やりかねない。


 小さいときに、もっとおしとやかに教育させるべきだったか。

 自由にさせすぎた。

 昔の暮らしを後悔し、兵に事情を聞いた。


「……ワシュウが?」


 事情を聞くと、数日前にワシュウという男が特例として、二人を連れ出していたと知り、また驚かされた。

 まったく面識のない人物であり、リナと何か接点でもあるのか、と勘ぐってしまうけど、確かめようがなかった。

 二人に危険が及ばなければいいのだけれど。

 いや、リナの心境によっては、ワシュウという人物も危ういか。

 私の心配が強まるなか、追い打ちをかけるように兵が伝えてくる。


「ツルギがキョウくんと一戦交えた?」


 鈍器で頭を叩かれた衝撃に目を瞑ってしまう。

 頭が歪んで倒れてしまいそうだ。

 それによってキョウは重傷を負ったみたいなのだけど、その状態で連れ去った?


「……まったく」


 なんで私の知り合いはこうも突拍子のないことをする者が多いのだ。

 己の境遇に憤慨してしまう。

 そもそも、“蒼”の隊長格という者は、どれだけ癖の強い者が集まるのだ?

 ローズにイシズチは元々何を考えているのかわからないし、自由に行動することを許しすぎだ。

 ワシュウにしろ、芯のある人物だと思っていたのだけど、どこか幻滅してしまう。

 ツルギしかり、力を持ってしまうことも問題なのかもしれない。



「……まったく」


 牢屋の一連を思い出し、またしても文句がこぼれる。

 一度手にしていた日記を勢いよく閉じた。貴重な資料の一つであるのに、乱暴に扱ったのは、悩みの種が多く、影響していたのかもしれない。

 もう一度、見直していくしかないか。

 自分に言い聞かせ、周りを見渡した。

 天井まで届きそうな高い本棚を眺めていると、ちょっとげんなりしてしまう。

 いくつかは目を通したけれど、それをもう一度と考えると、少なからず嫌悪感が差してしまう。

 しかし、

 やろう、と覚悟して腰を上げたときであった。

 急激な爆音と共に、体が揺れた。


「なんだっ」


 倒れそうになり、そばの本棚に手を当て、支えながら叫んでいた。

 上部の本棚を眺めると、収められている本が揺れていた。

 地震?

 いや、それにしては揺れが大きいし、あんな音はしない。

 まだ衝撃に慣れない体を支えながら、そばの窓に駆け寄り、外を覗いてみた。


「……なんだ、あれはっ?」


 声を留めることはできなかった。

 屋敷を眺めていると、屋敷の上部の一部の窓が砕け、黒い煙が立ち昇っていた。

 窓の周りは焦げているのか、黒くくすんでいた。


「これってやっぱ爆発? 敵襲? いや、でもなんでーー」


 困惑で頭を真っ白になりかけていると、また新たに爆発が起き、窓の破裂音が轟いた。

 クソッ。

 これはちょっと危ないだろ。これは本当に敵襲? 我々が襲われる理由って……。

 咄嗟に街に視線を落とした。

 街を歩く人々に衝撃は広がり、騒ぎになっている。いくつかの集団が屋敷を指差して焦っている姿が目立っていた。

 ただ、街に目に見える被害はなかった。

 襲撃じゃない?

 爆発はどこで? 

 まさか、内乱?

 出番がないからって、ここで嫌味を言うなよ、リナ。

 ここは待っておこう。

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