第四部 第四章 1 ーー 叫び ーー
二百三十二話目。
もう四章目だよね。
さて、私たちの出番は?
第四部
第四章
1
砂漠のなかで落とした針を探すことは途方もない苦労を生むんだ、と改めて思い知らされた。
資料室で偶然ながら見つけた誰かの日記。
他人の物を無断で読むことに後ろめたさは否めない。
でも、読まなければいけない。
また、史実を確かめるためにと読み進めていると、行き詰まって頭を掻く回数が次第に増えていた。
本棚に凭れ、胡座を掻くけれど、出るのは溜め息ばかり。
「……難しいものだな。まったく」
かなり年季の入った日記で期待したのだけど、胸のモヤモヤは晴れてくれない。
恐らくこの日記を記入してた人物がいた時代は戦争が起きたころ。
戦争に対する悲哀、不安、その人物の怒りが記されており、そこにはもちろん、テンペストに対する恐怖も書かれている。
これはある種の叫びだ。
だが、私の予測した言葉は書かれていない。
アンクルス。
誰にその名を聞いた? と問われれば、生憎思い出すことのできない、曖昧な記憶でしかないのだけれど、小さな釘として心に打ち込まれて消すことのできない言葉。
いつしかその真相を暴いてみよう、と歴史を調べるなかで、使命感として意識の隅にあった。
またアンクルスという言葉とともに、思い浮かぶのは、リナたち姉妹の期待に満ちた満面の笑みである。
どこかでいつしか辿り着ける、と高をくくっており、軽率に話してしまっていた。
まさか、それが原因で彼女らが凶行に走るなんて考えてもみなかった。
だからこそ真相を掴み、彼女らの目的を達成させたなら、これ以上二人を苦しめることはない、と考えているのだけれど……。
現実はそれほど甘くないらしい。
アンクルスという言葉を探すことさえ、苦悩させられ、つい苦笑してしまう。
資料室をあさり、以前見つけた日記同様、本に隠されていた日記は三冊。
どれも筆跡を見る限り、同一人物のもので、腐敗具合からも、同時期に書かれていたであろうと思えた。
そして、その二冊をすでに読み終えたのだけれど、私の期待は徒労に終わってしまった。
本棚に凭れ、こぼれるのは溜め息だけ。
伝わってくるのは、昔に起きた戦争がむいみであったか、ということ。
……戦争に力を入れるならば、テンペストについて議論すべきだろう。
日記を読んでいると、当時の権力者に強く一蹴したいものだ。
いや、私が言えた義理もないか。
世界は間違っている。
我々は負けてはいない。
世界を正しく粛正すべきだ。
“蒼”を創設した先人たちが子供だった私たちに、唱え続けていた願い。
それは洗脳するに値するものだったのかもしれない。
実際、ナルス、ナルディアで普遍的な生活をしていた私たちを感化させ、“蒼”に属していたのだから。
我々が世界を変える、と信じて。
不意に天井を眺めてみると、世界統制を目論んだツルギの鬼気迫った顔が浮かんでしまう。
「……ツルギ、私たちもあのときの大人と同じなんだ。きっと間違っている」
弱々しい訴えは、本人に届くことはないだろう。
唸りながら額を叩いてしまう。
古い友人を説得できないのが歯痒かった。
今は奴を説得するだけの情報を集めるべきだな。
パンッと頬を軽く叩き、瞬きをした。
悩むよりも行動を起こすべきだ。
自分を鼓舞すると、再び日記に視線を落とした。
△月△日
私は一体、何と戦っているのだろう?
戦場は緊迫し、膠着状態だと聞いていた。
そらなのに、死者だけが異常に増えている気がする。
それなのに医療班が負傷者で溢れているとも聞かなかった。
兵の命を奪っているのは誰?
△月×日
ふざけないでっ。
私たちはテンペストとどう戦えっていうの?
………?
あるページを捲り、飛び込んできた一文。
それはそれまでと同じように、戦争に対する憤りであると、読んでいたのだけど、急に矛先が変わっている気がした。
テンペスト。
書かれていた部分を指でなぞってみる。
短い文章であったけれど、なぜかここだけはテンペストに対して、怒りをぶつけているような気がした。
……気のせいか?
首を傾げながらもページを捲り、続きに視線を落とす。
すると、ただの気の間違いだったのか、その日以降は、それまでと同様の内容が淡々と記されていた。
△月※日
あれは間違いだったのか?
アンクルスに行っていたのか?
期待は……って感じだな。
でももう四章目。
早く感じますが、今後もよろしくお願いします。




