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忘却のテンペスト  作者: ひろゆき


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 第二章  11 ーー エリカは踊る ーー

 二十三話目。

 今日は……。

           11



 パチパチと鳴る火花の音が心地いい。

 充分に焚き火は燃えているけれど、揺れる炎は綺麗でつい枝を継ぎ足してしまった。

 リキルの町を出た夜、すぐにどこかの町に辿り着きはせず、野宿となった。

 獣や虫が来なければいいと願いながら、ある野原に転がる石に座り、火の様子を楽しんでいた。

 エリカの機嫌は思いのほか不機嫌である。

 何せ、野宿となれば充分な食事にありつけない。

 いや、並の人なら充分であるけど、エリカの食欲は例外であるために。

 まだ怒っているのか、と辺りを見ると、少し放れた場所にエリカは佇み、夜空を呆然と眺めていた。

 夜空は晴れている。

 悠然と輝く月が野原を淡く照らしており、エリカのまっすぐな横顔は月光に儚く輝いており、つい魅入ってしまう。

 風が地面の芝を優しく揺らす。

 野原を邪魔する物は何もなく、見晴らしがいい。

 始まるか。

 息を呑んだとき、エリカの両手が夜空に伸ばされた。

 風が黒髪をなびかせると、両手を左右に大きく動かし、体をくねらせてい。

 それは風になびく一輪の花みたく、体をしなやかに動かしていく。


 エリカは踊りが始まった。


 メロディーは風の音。

 ただ感情に赴くままに、エリカは夜空に向かって踊り続けていく。

 白いスカートの裾が動きによって大きく広がり、踊りにより大胆さを加えていく。

 僕は踊りを足元の焚き火を通して眺めた。

 焚き火の揺れはエリカの動きに合わすように揺れている。

 一緒に踊るように。



 時折、こうしたことがあった。

 エリカはふとしたとき、何かに取り憑かれたみたいに踊り出すことがある。

 誰に捧げているのかのような、目的のわからない衝動的な動き。

 けれど、踊るエリカは圧巻の一言であった。

 普段見る、子供っぽく、オドオドとしたひ弱な姿はなかった。

 堂々として、凛としていて、どこか大人びて面妖にさえ感じてしまう。

 最初のころ、急に始まる踊りに戸惑いはあった。

 止めようとさえ思ったこともある。


 けれど……。


 止められない。

 止めたくなくなった。

 いつしか、ずっと見ていたくなっていた。

 エリカの踊りを見ると、僕は魅入って心を高揚させていた。


 どうして踊るんだ?

 前に一度、踊り終えたエリカに聞いたことがあった。

 すると、満足げに肩を揺らし、満面の笑みをこぼして、


 わからない。踊りたいから踊るだけ。


 と、屈託なく笑顔を弾けさせた。

 無邪気な子供みたいに。


 僕はエリカの踊りが好きだった。

 不思議とずっと見ていられる。

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