表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
忘却のテンペスト  作者: ひろゆき


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

221/352

 第四部  第二章  5  ーー  己の存在  ーー

 二百二十一話目。

    アネモネ……。

      なんだろ、大丈夫なのかな。

            5



 どこか肯定してくれるレイナに体が強張ってしまう。


「誤解しないでね。それは多分、あなたがあなた、だからよ」

「それって私がアイナじゃないからダメッてことなのっ」


 自分の未熟さを晒されているようで、すぐさま抗ってしまう。


「だから誤解しないで。あなたを否定しているんじゃないの。あなたがアイナになろうと焦るからこそ、空回りをしている。そんな感じだと思うわ。それとね、これもわかってね。彼女のように、自分の意思を壊そうとしていることは悲しいことだってこともね」


 そこでレイナは胸に手を当てた。きっとエリカを指しているのでしょう。


「じゃぁ、私自身が消えないといけないってこと?」


 やはり、私が否定されているみたいで辛い。


「いいえ。それも違うわ。絶対にね」

「じゃぁ、なんで? なんでアイナは私の前に出て来るの。彼女はなんでまだ現れるの?」


 不安を和らげようとしてくれるレイナをよそに、声を荒げずにはいられない。


 じゃぁ、なんで……。


 なんであんな幻を見せるのよ。なんでリナが死んでしまうような場面……。


「……きっとアイナ自身、心配しているのでしょう」


 困惑で倒れそうななか、レイナの口が開く。


「きっとアイナは、あなたがそうして悩んでいることに気づいている。それが辛いのを伝えたいんじゃないかな」

「それって私を思って……?」

「えぇ。きっとあなたは責任感の強い優しい子なのね。だから、悩んでしまう。それにアイナは気づいているのよ。あの子も優しいから。それにその気持ちは私にもわかるわ」


 と、またレイナは胸に手を当て、少し考え込んでしまった。

 私が悩んでいる…… 私の悩みって……。


「じゃぁ、あなたはそれを私に伝えるために現れたの?」


 素朴な疑問。

 もしそうならば、とてつもなく自分が情けなく、惨めになってしまう。

 けれど、聞かずにはいられない。

 すると、レイナは力なくかぶりを振る。


「残念だけど、それとこれとは話が違うわ。私の場合、彼女が傷つき、意識が保てなさそうだったから現れただけ。本来ならば、出るつもりはなかった。そうね、私は彼女を助けるために現れたんだと思う」

「それじゃ、私はついでってことなのね」

「そんな卑屈にならないで。きっと私がこうしていられる時間は限られているはず。そこであなたに出会えたのは奇跡と捉えるべきよ」

「あなたも優しいのね」


 なんだろう。

 レイナと話していると、心が落ち着いていく。最初はエリカだと感じていたのに、髪を束ね、雰囲気が変わったとはいえ、なぜか顔を見ていると安心してしまう。


 リナとはまた違う。


 リナは私の前を堂々と歩き、怖いものにも臆せず向かい、先導する勇敢さに救われていたけれど、レイナはそばに寄り添い、心を宥めてくれる。

 そんな感覚があった。


 やはり姉さんだから……。


「ちょっと気持ちは軽くなった。ありがと」


 自然と頬が緩んだ。


「気にしないで。私にできることは話を聞くことぐらいだから。それに」

「それに?」

「そもそも、私という存在は、今にあってはいけないものだろうから。きっと、私が出ることで、あなたにも彼女にも迷惑をかけるはずだから」

「そんなことないでしょ」

「いいえ。私はきっと消えないといけない存在なのよ」


 レイナは笑った。

 その存在を嘲笑する姿は、とても辛そうに。


 だから何も言えなかった。

 どうしたんだろ。

   僕もちょっと不安になってきた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ