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忘却のテンペスト  作者: ひろゆき


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 第二章  10 ーー 黒いマントの人 ーー

 二十二話目始まるけど、ご飯は?

           10



 感情の起伏が本当に読めない……。

 心を突くことを言った途端、エリカはモジモジとしてしまい、ヤマトとまともに喋ることはなかった。

 結局、僕が「悪いね」とフォローしなければいけない。

 それでも、ヤマトには突き刺さったらしい。

 さっきまでの険しさは薄れ、頬を緩んでいた。



「もう行くんだね」


 昼すぎ。

 荷物をまとめ、町を出発しようとすると、ヤマトが見送ってくれた。

 エリカは昼食をしっかり食べられなかったからか、少し不機嫌である。

 このままでは、ヤマトの食料すら奪いかねない。

 無視しよう。


「君はこれからどうするんだ?」


 ヤマトは寂しげに頷くと、後ろを振り返り、朽ち果てた町を眺めた。


「……やっぱり、まだ気持ちは整理できていないかな。この先どうなるかも不安だし。もう、僕しかいないから……」


 返す言葉もなく、じっと唇を噛んでしまう。


「でも、大丈夫」


 空気が重くなりそうななか、ヤマトが晴々と明るい口調で答えた。

 表情は笑っている。無理もしてなさそうである。


「後のことはもう少しだけ考えてみるよ。でも、大丈夫。彼女おかげで、僕もちょっとは自信がついたから」


 と、ヤマトはエリカに向け目を細めるけれど、相変わらず子供みたいに僕の後ろに隠れて顔を背けた。

 何も成長していない。

 申しわけなく「ゴメン」と謝ると、ヤマトは「ううん」と流してくれた。


「あ、それと」


 無理矢理にでもエリカを前に出してやろうかと、抵抗するエリカの腕を掴んで引っ張っていると、ヤマトが思い出したように宙を眺めた。


「君たちの捜している人って、どんな人なの?」


 突拍子のない問いに、目を丸くした。

 エリカの腕を掴んでいた手がふと離れる。


「あ、ごめん。立ち入った話になっちゃったよね。でもちょっと気になっちゃってさ。ごめん、忘れて」


 悪気があって聞いてきたんじゃないのはわかる。

 けれど、気まずそうにヤマトは頭を掻いて視線を逸らした。

 それほどまでに無愛想な態度を僕らは取ってしまったのかもしれない。


 肌が痛い。


 嫌な沈黙が生まれてしまいそうな空気に嫌気が差していると、エリカがまた服の袖をスッと引っ張った。

 エリカはうつむきながらも顎を動かし、何かを訴えてくる。

 眼差しは「いい」と答えている。


「……そうだね」


 あの人の特徴を伝えた。

 とはいえ、明確なことが何もないことに変わりはない。何せ、名前すらもわからないのだから。

 わかっているのは男であり、背が高いことぐらい。

 最大の特徴として、黒いマントを全身に羽織っていること。

 顔もフードで隠されているのが一番、人物像を伝えられない原因になっていた。


「……顔を隠した黒マントの人か……」


 うなじの辺りを掻きながら考え込むヤマト。


「ごめん。心当たりはないや」


 気まずそうに言うヤマトに、「ううん」と小さく手を振る。


「気にすることはないよ。情報が少なすぎるんだ」

「ごめんね、役に立てなくて」

「いいよ、気長に捜すからさ」

「そっか。じゃぁ、気をつけてね」

「うん。そっちも気をつけてね。ご飯、美味かったよ、ありがと」

「………あ…… り…… と……」


 風が吹けば散りそうな声で、エリカも頭を下げた。

 礼を言うだけ成長したと思うべきか。


 そして、僕らは旅立つことにした。

 うるさい。

   まぁ、次を期待しな。

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