第四部 第二章 1 ーー 広がる荒野 ーー
二百十七話目。
なんか、私らの知らないところで話が進んでいるみたいね。
第二章
1
眼前に広がる荒野。
見えているものが自分の記憶でないことを知りながらも、歩みを止めることはできない。
硬い地面を踏みながら前に進むほどに、息が詰まっていく。
広大な荒野に似つかない物が数多く落ちている。
いや、寝そべっているのかもしれない。
血を流し、砂で全身を黒く汚した遺体が視界の隅々に転がっていた。
数を数えることすら胸を打つ多さ。
数えるほどに頬を殴られたような痛みに襲われそうだ。
そんな荒んな光景に、臭覚すらも麻痺しそうだけれど、歩みは止められない。
戦果の大地を進んでいたとき、遺体の山が突如開けていく。
するとその中心に、あの大剣が悠然と地面に突き立てられていた。
太陽すら闇に隠れるほど薄暗いなか、不思議と大剣の刃が光を放っていた。
自らの存在を示すように。
足を止め、大剣を憎らしく睨んだ。
ここはどこかの果て?
それとも世界の淵とでも言うの?
「これは私が望んでいることなの?」
戦いを望み、死者が増えることを望む……。
「どうなの、アイナ。そうなの、アネモネ……」
それは誰にでもない。自分に対しての問い、叱責であった。
答えられない。
全身に沈み込んでくる沈黙に耐えられず、胸に手を当てる。
周りの静寂さとは裏腹に、胸の鼓動は破裂しそうに暴れていて、手で強く押さえてしまう。
自分が答えられないからこそ、虚しさばかりが強まり、目を瞑ってしまう。
じっと待った。
でも答えられず、手を強く握ってしまう。
なんだろう、この光景を本堂に望んでいるの?
「……」
目を開いた先に捉えた大剣。さらに、その先にいた一人の女性の姿に言葉を失う。
赤いワンピース型のドレスに身を包んだアイナに。
しばらくアイナと見つめ合ってしまう。
別に責めるわけではない。ただじっと目が合ってしまう。
それでも目を逸らせなれない。悪い気はしないのだけれど。
「ねぇ、これってあなたの記憶? それとも“先見”の力なの? 未来にこんな光景が広がるの?」
恐る恐る問いかけた。
こんな未来、あってほしくないと願いながらも、どこかで諦めている節があり、声に力は入らない。
ただアイナは私を見ることはなく、寂しげに唇を噛むと、視線を下に落とした。
私の質問に耳を背けたわけでもなく、どこか目を合わせるのが辛く、背けたんだと不思議と感じてしまう。
だからこそ責められず、口を噤んでしまう。
アイナは何かを見詰めている。
口で告げられるより気になり、つい私も視線を移した。
ふとした違和感に襲われたのは、ある遺体を見つけたとき。
大剣のそばに一体の遺体が転がっていた。
それまでそこに遺体があったか、と自問する間もなく、肌に気持ち悪さが触れる。
腕をクモが這うような気持ち悪さに震えが止まらない。
倒れていた遺体は華奢な体つきで、銀髪が頬に流れ、顔を隠している。
気持ち悪さがより酷くなり、震えが治まらない。
震えを止めようと掴む手に、より力がこもる。
刹那、
動くはずのない遺体が動く。
溺れから逃れようと、顔を動かした。
「ーーリナッ」
思わず叫喚してしまった。
銀髪が流れ、目から頬の辺りを垣間見たとき、横たわる体がリナであることに気づかされた。
リナ? リナがなんでここに?
「……死んで…… る…… 嘘、でしょ……」
声が震えるのを耐えながら、眼前のアイナに求めてしまう。
これが現実なのかと。
アイナは黙ったまま、こちらをじっと見据えていた。寂しげな眼差しをしたままで。
何かを伝えようとしているの?
現実じゃないんで…… しょ。
「これって未来に起きること…… なの?」
ま、それだけ世界が広いってことなんじゃないか。
そして、今回より二章目の始まりとなります。
今後も応援よろしくお願いします。




