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忘却のテンペスト  作者: ひろゆき


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 第四部  一  ーー  深まる危惧  ーー

 二百十六話目。

  あれ? 結局、私の出番はないまま終わりなのね。

 

 アンクルスをなぜ求めるのです?


 強く問い詰めることなんてできません。

 正直、口に出すことすら、はばかれるもの。

 望むことではありませんから。

 ただ、どうして彼女のような、普通の女の子が“アンクルス”の名を知っていたのか……。

 彼女もまさか……。

 いや、そんなはずはない。

 もし、彼女が私らと同じであるならば、アンクルスに対して疑念を抱くこともないはず。

 だからこそ、信じられないのです。

 ……ただ、普通の者であるならば……。

 

「……私のしていることは、間違いなのでしょうか?」



 ワシュウ。

 ハクガンというその名も捨ててまで、“蒼”に身を染めていたのは、悲しみを消し去ろうとしていたからではないのか?

 つい自分を責め、目を瞑ってしまう。

 静寂の痛みが心を押し潰しているとき。

 誰かに見られている気がして目を開いた。

 こぼれたのは安堵。

 もしくは戸惑いであり、苦しみからだったのかもしれないが、つい笑みがこぼれてしまう。

 

「……アイナ様」


 私の目の前に現れたのはアイナ様の姿。

 もう随分と対面することのなかった、柔らかなアイナ様の笑顔が私を迎え入れてくれた。

 それは幻。

 あるいは私の願望であることを把握している。けれど、久しぶりに対面した笑顔に自然と頬は緩んだ。


 ……そうか、彼女の妹とされたアネモネ殿は、アイナ様の生まれ変わり……。

 だからこそ、彼女から“アンクルス”について伝わっていたのかもしれませんね。


「アイナ様、あなたは優しすぎるのです」


 変わらぬ柔らかな笑みが心に染みながらも、つい責めてしまう。


「星のため、人のため、と己を犠牲にする博愛には心を打たれます。ですが、時には冷酷になることも必要と私は思います」


 責めたくはないのに、こぼれる言葉は……。


「……アンクルス…… あれを求めることは、自ら苦痛の渦に飛び込むのと同じだと思えてしまいます。それこそ、辛いことではありませんか。それに、あなたの意思を継ぐ方にお目にかかりましたが、どうも彼女は苦しんでいるように見えてしまいました」


 私は、あなたがどうしても自ら苦しもうとしているみたいに見えてしまいます。

 どうか、私の危惧を……。

 アイナ様は静かにかぶりを振る。


 ーー……。


 懐かしい声は、私の心に染み込んでくる……。

 そうですか……。


「それならば、やはり私は私の思いを貫くことにします。私は考えています。忘れること、それがすべての救いだと。

 申し訳ありません。あなたに背くことになってしまい……」


 アイナ様は責める私に、そっと微笑んでくれた。

 無垢な笑みは私を安堵させ、頷くように目を閉じた。

 ややあって目蓋を開きと、そこにアイナ様の姿は消えていた。



 それは幻でしかない。


 それでもほんの一瞬の出来事。

 アイナ様の姿は私の思いを強くさせてくれた。

 例え、アイナ様の想いに背くこととなっても。


「……忘れてしまえば……」

 悪い。

  今は文句も言えない。

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