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忘却のテンペスト  作者: ひろゆき


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 第四部  第一章  9  ーー  ふざけるなっ  (2)  ーー

二百十五話目。

   ツルギ様とキョウ。

     二人の実力差なんて、そんなの……。


 自分の力に自信があると言いたいのか。


「だから、ふざけるなって言っているんだ。僕は見たんだ。ある町を己の傲慢で破壊し、そこに住む人らを人形を壊すように容赦なく殺していった残忍な奴を。そんなことを許しているのに統率? 綺麗事を言うな。結局は人を支配したいだけだろっ。苦しんで死んでいった人のことを何も考えないでっ」


 リキルにおいて、住民の墓の前でうずくまっていたヤマトの姿が頭から離れてくれない。

 ヤマトを忘れるなんて……。

 込み上げる怒りと悔しさを堪えることができず、一気に捲し立てた。

 気づけば地面を殴りつけ、肩で息をしている。

 悔しさで目が痛い。

 目が充血し、涙もこぼれていた。

 息が上がり、口内の水分がなくなるなか、ツルギはまた腕を組んだ。


「抗弁それで終わりかね?」

「ーーっ」

「一部の兵の標的となり、被害にあった町や住民には同情しよう。だが、それも致し方がない」

「ーーっ」

「だってそうだろ。よく考えてみろ。興廃した地に花を植えようにも、まずはその地を耕し、そこに種を植えるのと同じだ。今はその地を耕している状態だと俺は捉えている」

「だから、その間に殺されても仕方ないってことか」


 敵意すら込み上げてくるなか、ツルギは平然としている。


「何が統率だ。犠牲を当たり前とする統率なんて矛盾してるだろ」

「いずれ、と言っただろ。いずれ正していくと。それに俺としては、犠牲を生まずに理想を掲げることの方が綺麗事だと思うぞ」


 別に理想を掲げるつもりはない。けれど、ツルギの言葉にぐうの音も出ない。


「人を束ねることを考える立場になれば、その判断も苦渋の決断と理解できるさ」


 悠然と答えるツルギ。

 一片の揺らぎもない姿に、苛立ちが高まり、力なくかぶりを振る。


「……そうか。だがやはり、君の力は今後、多大なる影響を与えることは明白。どうだ、俺と取り引きといかないか」

「取り引きだって」


 どう考えても、悪いことしか考えられず、奥歯を噛んでしまう。


「恐らくリナリアは大剣を盗んだ罪として罰せられるだろう。君も知っているだろう。あの大剣は世界を揺るがす大事な物であると。それを俺の裁量によってなかったことにしてもいい。君にもそうだ。特別に隊長格に扱い、自由に行動できるようにしたっていい。どうだ、悪い話ではないと思うのだが」

「ちょっと待て。リナの罪って、それはもう解決していたはず。ヒダカはだからリナをここに呼んだって聞いていたぞ」


 そうだ。だから、半信半疑でありながらも、アカギという男に着いて来たんだ。話が違う。


「だから俺の裁量による、と言っているだろ」

「ーー」


 ツルギは温厚に話してはいるが、それは体のいい脅迫でしかなかった。

 言い換えれば、僕らの立場を簡単に追い詰めることができると。

 自分にとって今、何を重視しなければいけないのか……。

 わかっている。大事なことはエリカだと。

 だけど、ここで従わなければリナが……。


「どうするかね?」


 重い声が肩にのしかかり、目蓋を閉じてしまう。


 …………。

 …………。


「……ごめん」


 暗闇で聞こえてくるものはない。ただじっと考えると、ツルギをグッと睨んだ。

 

「ーー断るっ」

「ほぉ?」

「やっぱりあんたの話は信用できない。理想としてはいいかもしれない。けれど、それは絶対に制圧でしかない。あんたたちは新たな恐怖を植えつけようとしてんだ。そんなことに従いたくはないっ」


 そうだ。従うわけにはいかない。


「……そうか。残念だ」


 言葉とは裏腹に、声はどこか弾んで聞こえる。

 しかも引き留める様子もなく、迷わず収めていた剣を抜き、またしても剣先をこちらに向けた。

 緊張が全身に駆け巡る。

 今度は容赦しないということか。

 痺れて右手で落ちていた剣を握り直した。


「では始めようか。信念を持たずに我を通すなよ」


 また怒涛の攻撃が来る……。

 ふざけるな。 

   本当にふざけるなよ……。

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