表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
忘却のテンペスト  作者: ひろゆき


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

214/352

 第四部  第一章  8  ーー  ふざけるなっ  ーー

 二百十四話目。

     キョウ、あんた大丈夫なの?

            7



 なんだよ、それ……。

 ツルギが高々と掲げる抗弁は理想なのか、それともただの絵空事なのか……。

 話を聞いているだけならば、僕やエリカのように生け贄によって命を弄ばれる者がいなくなるかもしれない。


 それって嬉しいことなんじゃないのか?


 誰かから背中に問われた気がする。

 迷いで視線が激しく左右に暴れると、ツルギがこちらに歩み寄って来る。

 何を思ったのか、右手を差し出してきた。

 顔は自信に溢れている。

 形として“蒼”に勧誘しようってことか。


 ツルギの考えは正しいのか?

 それはいずれ、生け贄をなくすことになるのか?


 声にならない疑問が鼓膜の奥で響いて意識を揺るがせていく。

 酔ってしまいそうな苦しさから逃れようと、右手がゆっくりと上がっていく。


「そうだ。君の考えは間違っていない」


 ツルギの口角が不適に吊り上がっていく。


「歓迎するよ、君をーー」


 刹那。

 ツルギの右手を大きく振り払った。


 ふざけるなっ。


 頭のなかで怒号が激しく轟いた。

 叫んだのは僕の声じゃない。

 怒りをぶつけてきたのは……。


 ヤマト。


 鬼気迫る険しい表情で叫ぶ山とが不意に頭のなかに現れた。

 怒りをぶつけているはずなのに、どこか目を充血させ、何かを訴えていた。

 そして、ヤマトの後ろにには、興廃した町な姿が見える。

 瞬時にそこがリキルであることを理解した。


 ふざけるなっ。


 ヤマトの一言はどれだけ短くても、とてつもなく重く、迷っていた僕の心をまっすぐ正してくれる。


 ーーそうだ。


「ーーふざけるなっ」


 ツルギを睨みつけ、大声で一蹴してやった。

 怖くなんかない。

 後ろにヤマトがいて肩に手をやってくれている。

 そんな錯覚が僕の背中を押してくれる。


「ーー統率? そんなものはただの詭弁だ。実際は実質支配なだけだろ。武力によって人々を服従させる。そんなものは形が変わっただけの恐怖でしかない」

「武力行使? そうではない。心の拠り所を作ろうとしているのだ。誰かが中心に立ち、世界を束ねようと」

「あんたは“蒼”の王にでもなるつもりか?」

「俺じゃない」

 

 皮肉を込めて「王」と表現すると、ツルギはゆっくりとかぶりを振る。


「拠り所となられるのは帝だ。我々は帝を支える柱でしかない。それが“蒼”なだけだ」

 帝……。

 確か、リナがそんな存在がこの屋敷にいると言っていた。

 振り払われた手を擦り、困り果てた様子で溜め息をこぼすと、ツルギは背を向けて踏み出していた。

 最初にいた場所に戻ると、ツルギは振り返る。

 その目には仰々しさが戻っていた。


「前に聞いたことがある。お前らは昔の戦争で負けた国の子孫であり、その恨みを晴らすため武力によって支配しようとしていると」

「……誰にそんな戯れ言を聞いたのか。まぁ、“蒼”の実態を知る者は“蒼”に関わりのある者だけ。おのずと誰であるかはわかる。ま、それは問題ではないがな」


 手首を擦りながら、己で話をまとめて納得するツルギ。

 情報を伝えた者を嘲笑するように口角を上げて。


「まぁ、少なからずそうした歪んだ考えを持つ者もいるだろう。だが、いずれそわような者も俺が正していくつもりだ」

 わかってる。

   大丈夫なんだよ、絶対に。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ