表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
忘却のテンペスト  作者: ひろゆき


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

213/352

 第四部  第一章  7  ーー  人の心に竦む  ーー

 二百十三話目。

   自分の出番がないのって、確かに暇ね。

    暴れる?

            6



 ツルギは重い一言をこぼすと、剣を鞘に戻して腕を組んだ。

 空気は重いはずなのに、剣先から解放され、多少は気が緩んでしまう。


「キョウとやら、今、この世界で人々を支配しているものはなんだと思う?」

「……支配?」


 唐突に問われ、頭のなかがまだ整理できない。

 それは“蒼”ではないのか、と浮かぶけれど言葉は喉を通ってくれない。


「わからないか。まぁいい。では答えよう。それは“恐怖”だ」


 明確な人物や、組織を想像していたので、ツルギから出る曖昧な言葉に眉をひそめてしまう。


「ピンとこないようだな」


 気持ちを見透かされ、口を噛むが、返す言葉がない。


「では、その一部が“テンペスト”だと言えば、理解できるかな」

「ーーテンペスト?」

「少し昔話になるが聞いてくれ。俺が子供のころ住んでいたいた町の話だ。そこは頻繁にテンペストの被害を受ける町だった。「なぜ?」と問われれば、それは日頃の行いが悪かった、と答えるのがしっくりくるだろう。きっと同じ質問をヒダカらに聞いても、同じことを言うはずだ。奴も俺と同じ町出身だからな。まぁ、それはいい。だから昔はその町も頻繁に祭りを行っていたんだ」


 ……祭りって…… まさか……。

 少なからず反応してしまった。

 するとツルギの口角が上がる。


「もちろん、そのたびに住民から“生け贄”を選出することになった。特に女、子供が犠牲になることが多かったな」

「……なんだよ、それ」

「もちろん、祭りのあり方に疑問を挙げる者もいた。祭りを否定する者も。だが、誰もが祭りを行うことで、「自分たちは大丈夫、守られている」と信じていたんだ。逆らえなかったんだな」

「逆らえないって、権力者でもいたのか?」

 

 そこでツルギは黙り、僕をじっと見据えてきた。


「町に権力者はいなかった。町民を束ねる町長はいても、町を思い、憂う人格者だった。権力を振りかざしてなんかいない。それよりも厄介な存在があった。それが“恐怖”だ」

「恐怖?」

「そうだ。目に見えない恐怖は、人の心に忍び込み、気づかないうちに体を蝕んでいく。そして恐怖に支配された住民は、テンペストという目に見える脅威から、恐怖から逃げたくて、解放されたくて祭りを行った。そして、数多くの犠牲を生んだんだ。

 それでどうだ? テンペストは消えたか? 否っ、テンペストは消えなかった。

 犠牲者だけが増え、恐怖だけが人々の心に竦んでいるんだ。それは今になり、俺の町だけでなく、世界に広がっている」


 テンペストに対する恐怖。

 祭りの犠牲者。

 話を聞いていると、確かに胸を締めつけるものがある。

 ……これが。


「あえて言おう。“テンペスト”はなくならないっ」

「ーーなっ」


 ツルギは力強く断言し、右手を真横に強く振り切った。

 潔い? いや、重大な断言に耳を疑ってしまう。


「そんなの、祭りを行っている町にしてみれば、本末転倒じゃないか」

「いいか。確かにテンペストとは魔物みたいなものだ。町を襲い、すべてを呑み込む。その対抗手段もない。だが裏を返せば、生け贄を生むことは無駄ではないのか。そんな命を粗末にすること。それこそ命に対する冒涜だろう」

「でも、人はそれでも祭りに頼ってしまうんだ」

「そうだ。それこそ、“恐怖”に人は支配され、愚行を犯してしまう。だからこそ、その恐怖に打ち勝つための手段が必要なのだ」


 と、振りかざしていた手を前に戻し、拳を握った。あたかも手の平にあった物を握り潰す素振りで。


「人は強い心を持たなければいけないんだ。テンペストが起ころうとも、臆しない強い心、生け贄に頼らない強い心を。だが、今のままではダメだ。今は人がバラバラとなっている。だからこそ、人を束ねる必要があるのだ。テンペストは怖くない、と向き合える人々に」

「だから、人々を統率……」

「そうだ。そのため、“蒼”は組織だって動いている」

 やめてくれ。

 エリカみたいに文句を言われると、疲れる……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ