第四部 第一章 2 ーー 飛び込んだ先 (2) ーー
二百八話目。
なんだか、暴れたい気分ね。
なんだろう。子供まで、と聞くとどこか気味悪さを否めない。
「いや、ちょっと待ってくれ。そんな奇妙な街、ほかの町の人らにバレるんじゃーー」
「ここじゃ、あの青い服を着て歩いている者も少なくないわ。きっと端から見れば、街を警護する者として捉えられてる。だから、外では服装を隠しているんでしょうね」
「でも、商人らも出入りしているんだろ。そいつらからーー」
「商人にも紛れていたのよ」
「???」
「商人として町を渡り歩き、安心安全な街だってことを広げていたのよ。ま、情報操作ってやつ。それで街は保っているのよ」
「……情報操作……」
「ま、なかには奇妙さを持つ人もいるだろうけどね」
それで上手く誤魔化せるのか…。いや、そもそもそんなことをしてまで、“蒼”の連中は何をしているのか。
縛られていた手をギュッと握り直した。
やっぱりここにいるのは危険だ。
「ーーで、私らが捉えているのが、その屋敷の地下にある牢屋ってことよ。ここは“蒼”の拠点となっているから」
「でも、それって確かリナらが」
「ーーそ。私らが大剣を奪って逃げた場所でもあるわね」
自らの行動を恥じているのか、リナは苦笑しているみたいに聞こえた。
だとすれば、リナを捕らえるのに先生を利用されたってことか。
人をバカにする手法に苛立ち、舌打ちをしてしまった。
やはりここに留まるのは危険だ。
けど、なんで?
確かリナは怪力…… っと、もとい、多少のことなら抜け出せそうだけど。
「なぁ、その、リナだったら、これぐらいの鉄格子は簡単に壊せるんじゃないのか?」
怪力、とは言わないでおこう。
言ってしまえば、鉄格子なんかじゃなく、壁を拳が突き抜けてきそうだ。
逃げ出すにはリナの力が必要だ。今の僕には何もできない。
「あ、ごめん。それが無理なのよ」
通路の先がどうなっているのか、脳裏でイメージしていると、壁の奥からリナがどこか楽しげに言ってきた。
予想と違う返事に、言葉に詰まって天井を眺めてしまう。
「ったく、あいつら女の子に対しての接し方を完全にわかってないのよ。マジでイラつくわ」
「何かされたのか?」
憤慨するリナに、嫌な予感がよぎり、声が上擦ってしまう。
もしかして、数人の男に……。
「ねぇキョウ、あんた今、体縛られたりしてる?」
「ーーん? まぁ、腕を縄で縛られてるけど」
急に本質から逸れた問いに戸惑いながらも、縛られた腕を眺めて答えると、リナは重たい溜め息をこぼした。
壁を通り越して聞こえるほど大きく。
「なんで男のあんたがただの縄で、私が鉄の鎖なのよ」
「ーー鎖?」
「あの連中、大人しくしていたら、調子こいて鎖を手に巻いてきたのよ。それも二重になんかして。もう重たいっての」
リナの腕が鎖で縛られている光景が頭をよぎった。それでも、軽々と腕を上げている姿を想像するのは僕だけか?
「ほんと、これのせいでやる気がなくなっちゃうのよね」
ってか、ここの連中もリナの怪力は周知ってことか。
それまで憤慨していたリナの口調が急に静まった。文句を吐き捨て、気が治まったのか。
まさか、八つ当たりで壁を殴ったりしていないか。
こいつならやりかねない……。
ま、壁が崩れていないことを考えるとそれはないか。
「それに……」
「……それに?」
「まだ先生に会ってないんだよね。そればっかりはちゃんと話しておきたいし。それもあって、大人しくしていたってのもあるんだよね」
確かにちゃんと話を聞くべきかもしれない。あの人なら、変な先入観もなしに話を聞いてくれそうだ。
だけど……。
頭を抱えてしまう。
リナにだって、アネモネのことがある。焦りがないわけじゃないだろう。
それを堪えて待っているのかもしれない。
だったら、僕も先生から話を聞くべきなのか……。
それでもーー。
止めてくれ。
そればっかりは違う問題が起きそうだ。




