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忘却のテンペスト  作者: ひろゆき


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205/352

 第四部  序  ーー  或る女の嘆き  ーー

 二百五話目。

   今回より新しい幕開け、とでも言うのかしらね。これって。

           第四部


            序



 オォォッ オォッ オォッ オォッ


 大地が唸っている。

 風が兵士の咆哮によって震え、脅えるように頬に触れると肌がひりついていた。


 それは開戦の狼煙?


 高揚が広がると、武器を手にする者は槍の柄を地面を叩き、咆哮に呼応する。

 うねりは陽炎を生み、景色を歪めていく。

 喉が痛み、息を呑む暇もなく、開戦となるでしょう。


 はたしてこの咆哮は兵士に対するレクイエムとでも言うの?


 ……ふざけないで。


 きっと兵士の気持ちは高まっていてるでしょうね。


 私以外は……。


 戦争にとって、命の重たさは不平等であるのを痛感させられる。

 偉い者ほど安全で、丈夫な壁に守られ、優雅に戦場を眺めているだけ。

 真っ先に命を堕とすのは力のない兵士から。

 そこに男も女も大人も子供も関係ない。

 立場的弱者ほど、命の価値なんてなかった。


 そして私も……。


 数多くいる兵士の最前列にいた。

 荒れ果てた荒野に配置され、一定の距離を空けて敵がまた多くの兵を配置している。


 ウォォッ ウォッ ウォッ


 オォォッ オォッ オォッ


 互いの咆哮が威嚇するように張り詰め、空気を震わせていた。


 死にたくはない。


 だからみんな声を荒げているんだ。

 心の奥底に蠢く恐怖を紛らわせるために。

 兵士の咆哮は決してレクイエムなんかじゃない。


 これは悲しみの声だ。


 そう。死にたくなんかない。

 誰か助けてくれるなら助けてほしい。

 

 助けてーー。


 その瞬間だった。


 赤いドレスを着た少女が現れたのは。

 華奢な体に似つかない背丈ほどのある大剣を手にして。



 それまでの咆哮は瞬時に鳴き止んだ。

 悠然と立ち、空を見上げる姿を静観するように。

 まるで時が止まったみたいに、それまで荒れていた空気が固まっていく。

 息をすることすら忘れさすように。

 苦しさに耐えきれず息を吸ったとき、時が動き出したのか、無謀な願いを望んでしまう。


 この戦争を止めてほしい。


 死にたくなんかない。

 

 何も起きなければ、きっとあと数分間の命。

 助かるならば、神にさえ見えてしまい、願いを委ねてしまう。


 私の願いが届いてくれたのか、少女は大剣をものともせず天に捧げると、その小さな体で踊り始めた。

 悠然たる、整然とした姿に言葉が詰まっていく。

 堂々たる踊りに、そこが戦場であることを忘れたみたいに揺れていた。

 小さくとも、大きく雄大な炎の灯火みたく体を大きく少女に魅入ってしまう。

 留まることのない踊りに魅了されていると、少なからず期待せずにはいられなかった。


 これで戦争は始まらない。

 終わってくれるんだ、と心の奥にロウソクみたく期待が湧いていく。

 この少女が戦争を止めてくれる。



 どれほどの時間、踊り続けていた少女は静かに小さな体を止めた。

 踊りが止まった。

 これで戦争が終わってくれる。

 引き攣った頬が淡い感情に動かされ、ゆっくりと綻んでいく。

 体を熱くさせていく安心感が、全身を覆い尽くしていくなか……。

 視界が黒く汚されていく。


 望みは願望でしかなく、現実には叶わないことでしかないんだ、と。

 それこそ、神に嘲笑われているみたいで辛かった。


 願いは叶わなかった。

 ま、そうなるね。

 ということで、第四部の始まりとなります。

 さて、エリカはどうなるんだろ……。


 では、今後も応援よろしくお願いします。

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