表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
忘却のテンペスト  作者: ひろゆき


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

20/352

 第二章  8 ーー ある行為 ーー

 あれ、私って喋ってない?

 二十話目だよね?

            8



 まだ捕まってなんかいない。

 それなのに緊張が震えさえも奪い、手の爪の先まで熱を失う。

 足の裏からは、地面の冷たさが異常なほど伝わってくる。

 金髪男は少し距離を保ったまま、ヤマトと対峙した。

 ヤマトも身構えている。


「君の言う通り、その者たちは私の部下かもしれない。部下のその愚行は私の責任でもある。本当に申し訳ない」


 目を疑った。


 金髪男はそこで頭を深々と下げたのだった。


「人の命を奪う。それは頭を下げて許されることではないことは重々承知している。それでもできるだけその怒りを鎮めてほしい。申しわけない」

「……あんた、正気か?」


 こいつ、見るからに隊長なんだろ? そんな簡単に……。


 思わず震えた声がこぼれてしまった。


「あんた。それこそ確証はないんだろ、それなのに」

「そうです、隊長っ。頭を上げてくださいっ」


 金髪男の肩を持つ気もないし、ヤマトを疑う気もない。

 けれども、迷わず頭を下げる姿に驚愕してしまう。

 当然ながら、周りにいた男たちも騒然とし、金髪男に焦っていた。


「構わん。黙っていろっ」


 騒ぎ出す男たちに、金髪男は頭を下げたまま一蹴する。すると、それまで騒いでいた男たちに静寂に包まれる。

 肩透かしもいいところだ。僕らの方が危害を受けると覚悟していたから。

 ただ、本当は納得していないのか、怒りや疑念でヤマトを捉えている。

 緊張が解けることはなかった。


「バカにするなっ」


 このままでは緊張の糸がいつ途切れてもおかしくないなか、破裂したのはヤマトだった。


「そんなことで許せるわけがないだろっ。お前がそうやって頭を下げるだけで…… 何人の人が殺されたと思うんだっ」

「小僧、いい加減にしろっ」


 ヤマトが感情を爆発させていると、年配男が我慢しきれず一蹴する。


「こちらが大人しくしていれば、調子に乗るなっ」

「うるさいっ。ふざけるなっ」


 刹那、年配男が剣を抜き、剣先をヤマトに向けた。

 ヤマトは負けじと虚勢を張り、年配男を睨んだ。

 象に蟻が歯向かったって無謀なだけなのに……。

 でも、ヤマトはやりかねないほど危うい。

 すぐさま腕を横にを伸ばし、体を制した。

 まったく、怖いはずなのに体が動きやがる。


 さて、エリカと二人。どう守るべきか……。

 恐怖が意識を狂わせ、笑いそうになっていると、唐突にヤマトが背中を向けてしまう。

 そして、その場から草むらへと駆け出してしまった。

 おいっ、と声をかける隙もなく、ヤマトは姿を消してしまった。

 なんなんだ、くそっ。



 ヤマトがいなくなった後も、しばらく金髪男は頭を下げ続けていた。


「早く剣を仕舞え。そうした素振りが誤解を生むのだ」

「ーー失礼」


 金髪男が制すると、年配男は逆らうことなく剣を鞘に収めた。

 ややあって金髪男は顔を上げる。


「君たちにも迷惑をかけた。すまなかった」

「……いや、僕らは別に」


 金髪男がこちらを見たとき、エリカはまた身を縮めて隠れた。


 金髪男に威圧感はない。

 ずっと穏やかに接してくるのだけれど、その丁寧な態度にも、周りの男たちが従っているのが逆に恐怖となって逆らえない。

 目に見えない威厳か何かがこいつの背中にあるのか?

 金髪男は再び馬に乗り上がった。


「よし、行くぞ」


 もう用事が済んだのか、周りの者を束ねていく。


「あ、あの」


 馬の手綱を引き、動き出そうとするのを引き止めてしまった。


「あの、この町に何があるんですか? その、前に襲ったのがあなた方の仲間なら、今もう一度あなたたちが来てる…… この町に何かあるんですか?」


 気まぐれで町を潰すなんて横暴でしかない。自然と口が開いていた。


「そう疑われても仕方がないね。だが、この町に固執しているわけではないんだ。本当に偶然。申しわけないんだがね」


 流暢に説明している表情に嘘を言っている様子はない。


 悔しいほどに。


「じゃぁ、何か理由があるんですか? 何かを探しているとか」


 ちょっと踏み込んでみた。

 けれど金髪男は動じず、クスッと頬を緩めるだけ。


「悪いね。これ以上は答えられない。ここからは我々の話なのでね」


 上手くかわされてしまった。短い前髪を流すように。


「ーーよし、行くぞ」


 金髪男は年配男らに声をかけ、馬をさばくと反転して、馬を走らせた。

 周りにいた男らも後を追って馬を走らせる。

 瞬く間に馬の足音は遠くなり、砂埃だけを残して去ってしまった。

 話し出すきっかけはあったと思うぞ。

 じゃぁ、次にでも喋りな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ