第一章 1 ーー 目覚めはよくない ーー
ーーえっ? これ二回目?
出遅れたの?
私が“ ”なのにいいの? って、これまだ言えないか。
ってことで第二話っ。
第一章
1
眠っていた。
と、気づかされたのは、目蓋を開くと、目の前に陽光が射し込み、青々とした葉が揺れる木々があったからである。
暖かい空間は広がり、木の幹に凭れて座り込んでいた。
目蓋が重いな。
長く寝たつもりはないのだけど、そうでもないみたいだ。
「ようやく目が覚めたか。クソボケ」
まったく。もう少し優しく言えないのか。
あと少し、暖かい夢に包まれていたのならば、体のどこかが痛みで悲鳴を上げていたな、と痛感してしまう。
乱暴な起こし方だ。
容赦ない声に呆れ、欠伸をしながら両手をぐっと伸ばした。
どうも体は重い。
「さっさと起きろ、キョウ」
ちょっとした満足感に、瞬きをしてうとうとしていると、眉間にしわを寄せ、釈然とせずに罵声を飛ばすのはエリカ。
木に凭れて足を伸ばす僕の前で腕を組み、自信ありげに仁王立ちしている。
迷いに迷って選んだ黒いブーツが飛び込んでくる。
憎らしさにお気に入りのブーツを蹴りたくなる。
木々の隙間を抜ける風が、長い黒髪を揺らしている。
怒りが細い目を吊り上げているのか、より険しくなっていた。
絶対、数秒目覚めが遅ければ、黒いブーツの踵が額に刺さっていだろう。
小さいからか、俊敏さは無駄にあるからな。
ふぅ。もう少し愛想よくなってくれれば、可愛いのだけど。
「わかっているよ。起きればいいんだろ」
「早くして」
起き上がると、腰に手を当てて辺りを見渡した。エリカは横でまだ文句が言い足りないのか、腕を組んで口をへの字に曲げている。
森に入ったのは三十分ほど前。突如現れた空間に疲れからか、木に凭れたのが失敗だったらしい。
朝からずっと町を目指して歩き続けていたから、足が悲鳴を上げてしまったか。
マジで寝ていたみたいだな。
退く睡魔を惜しみながら、広場の中心にあったものを眺め、顎を擦ってしまう。
本当は、エリカの唇をつまんでより捻ってやりたいが、ここは我慢しよう。
「どうだ、感じるか?」
「ううん。なんにも」
「ーーそっか」
「……でも、ここには何か嫌な気がしてしまう」
「だろうな。それは僕も同じだ」
エリカは鼻頭を擦りながら、広場の中心を眺める。
広場は大きな岩が転がって索漠としているなか、中心には一メートル四方の、小さな木製の台が設置されていた。
じっと眺めていると、一線を退いた老兵みたく、心地よい寝息が聞こえそうだ。
木でできた台はくすみ、所々が崩れており、建てられて数年は経っている年季を醸していた。
それでも、木々に囲まれたなかには不釣り合いであり、人工的に建てられたのは明白であった。
何かの儀式に使うのか?
「なんか、奇妙ね」
「あぁ。多分いいことには使いそうにないな」
疑念はここに置いておくべきか。
「近くに町があるらしい。行ってみるか?」
森の入口へ続く方向に親指をクイッと指すと、エリカはこくりと頷いた。
「ねぇ、バカみたいな寝顔していたけど、どんな夢見てたの?」
バカみたい、は余計だ。
「ーーん? まぁ、いつものやつだな」
木々の影に入り込もうとしたとき、ふと足を止めて広場を振り返った。
柔らかい風が背中から向かってきて、広場に吹き抜けていく。
小さな台の中心に、六段ほどの階段があり、壇上に登れるようになっていた。
そして何を表現しているのか、二本の剣が×印を作るように、刺されていた。
やはり剣は数年もの間放置されていたのか、雨風に晒されて腐食している。
使い古され、刃こぼれもあり、錆びている。
風格すらある剣を眺めていると、疑念が強まり、肺が締めつけられてしまう。
あれはもしかして……。
木々の青々とした葉が揺れ、カサカサと活き活きとした伊吹が心地よく耳に染み込んでいく。
葉音を聞いていると、ここに留まりたくなりそうな、そんな心を鷲掴みにされた高揚心に揺さぶられてしまった。
「ーーねぇ、あの人のこと、思い出すことできた?」
エリカの寂しげな問いに、黙って首を振った。
「ーーさ、町に行ってみるか」
胸に刺さる痛みをごまかしながら、足を踏み出した。
「でしょうね。でなきゃ、こんなに苦労しないし」
ったく。一言多いよ。ま、いいけど。
「ーーだな」
どうも、キョウです。
前書きは、エリカです。うるさくてすいません。
あんな奴と旅をします。
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