第三部 第八章 1 ーー 見据える先 ーー
百九十八話目。
あれ?
今回から新しい章なんだ。ふ~ん。
第三部
第八章
1
全体をぼんやりと覆う、淡い光が満ちていた。
白い光が弱まっていくと、白く反射した建物がぼんやりと浮かんでくる。
そこには数多くの住民の姿も増えていく。
子供と遊ぶ親子や、楽しく喋り合う者。
露店で野菜を売る者や、それを物色する者の姿が至るところに広がっていた。
その誰もが明るく振る舞ってはいるが、声はまったく聞こえない。
また誰もがこちらに気づくことはなく、何事もなくすごしている。
手を伸ばせば、届きそうなところに人がいながらも、計り知れない距離があることに胸を痛める。
私はここには入れないのね……。
溜め息をこぼしたとき、淡い光が次第に強まり、建物や人を包んでいくと、視界が真っ白に染められていった。
しばらくして光が弱まると、再び辺りの光景が広がっていく。
そこにそれまで広がっていた建物の姿は一つも残っていなかった。
閑散とした荒地が広がるだけ。
地表が剥き出しになっており、砕けた石などが乱雑に転がっているだけ。
また、それらの石などは、深いコケが張りついていた。
それだけ時間が経っているのを物語っている。
そして、目の前にあるのは地面に突き刺された大剣。
先ほどの光はこの大剣から放たれていた。
大剣は鍵穴にはめられている。
大きく溜め息をこぼした。
唇を噛み、空を見上げると、青空が広がっている。
「……なんなの、これ……」
「何か見えたみたいだね、アネモネ」
また溜め息をこぼしそうになっていると、後ろに立っていたミサゴが嫌味っぽく聞こえた。
「どうでしょうね」
感じたことを伝えても、茶化されそうだったので、ミサゴっぽくごまかしておいた。
「そっか。何かが見えたってことか」
唇を舐め、黙っておいた。
見透かしておいて嫌味なんて、ほんと嫌な性格。
「ま、僕らには関係ないもんね。僕らがするべきことは一つだからね」
「……そうね」
そう。私たちは止まるわけにはいかないから。
大剣を抜くと、一度回転させてから地面に突き立てて振り返った。
そこにはミサゴ一人が立っていた。
「あれ? セリンは?」
振り返った先にセリンの姿はない。
「さぁ? でも、さっき血相変えて行っちゃったけど」
「そう」
「あいつも勝手だよね。僕にフラフラするなって言ってるくせに、自分だってフラフラしてんだからさ」
「ま、彼にも事情があるんでしょ」
「へぇ。やけに寛容だねぇ」
どこか嫌味のある言い方を無視し、空を眺めた。
「そうでしょ。ハクガン」
視線を落とし、風が吹きつけ、目を細めたときである。
ミサゴよりも後方にふと、一人の姿が現れた。
その者はゆっくりと立ち上がった。
「……ハクガン?」
釣られて振り返ったミサゴが驚愕の声をもらした。
悠然と立つ一人の男を睨むようにして。
「へぇ。珍しいね。君がここに現れるなんて。君はもう現れないと思っていたから。何せ、裏切り者だもんね、君」
ミサゴは腰に手を当てると、なかば好戦的に聞くが、男は私をじっと見てきた。
褐色のいい細身の男。
ミサゴと同じ黒いマントを羽織っているが、フードがめくられ、素顔を晒していた。
「……驚きましたよ。本当にあなたがこうして現れたことに」
「それは私も同じよ。あなたがここにいることは、嬉しいことと取っていいの?」
ミサゴを無視して聞くと、ハクガンは答えずに顔を伏せてしまう。
その仕草が答えみたいで、私も何も言わない。
「恐らく、私の想いは長く保つものではないでしょう。だからこそ、あなたに一つ聞いておきたく、参りました」
「聞きたいこと?」
「アイナ様が今後、何を求めて突き進んでいくのかを」
ハクガンは私をじっと強く見詰めていた。
「なんか、脅しているように聞こえるけど?」
「茶化さないで頂きたい、ミサゴ。私は真剣に聞いているのです」
突っかかるミサゴを制すと、またこちらを向いた。
大剣を握る手に力が入る。
「ーー星のため。私の思いに変わりはないわ」
ハクガンの目を見詰め、強く答えた。
これだけは揺るがない。
しばらくハクガンと睨み合ってしまった。
漂う沈黙が耐えられないのか、ミサゴは面倒そうに腕を組んで、嘆いていた。
ややあって、ハクガンはかぶりを振り、
「私にはそうは思えないのです。このままではテンペストを強めてしまう気がしてなりません」
「わかっているわ。でも、それでも止まるべきじゃないと思っているの」
そこで持っていた大剣を揺らしてみると、ハクガンは憎らしげに大剣を見た。
「ねぇ、あのときの判断は間違っていたのかな?」
グリップを掴む手に力が入るけれど、声に力は入らない。
「それは私にも答えられません。きっと、イカルも星のため、その大剣に想いを込めたはず。しかし、テンペストは治まっていない」
「……そうね。でも、テンペストは鎮めたいのよ」
そ、八章目。
あれ? そういえば、八章目まであるの初めてかな。
では、今後も応援よろしくお願いします。




