第三部 第七章 6 ーー 洞窟 ーー
百九十五話目。
まさか、アカギらと行動を一緒にすりなんてね。
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どれだけ走っていたのかわからないほど、荷台に乗せられ、移動していた。
空を眺めていても、落ち着かないのは、視界にアカギの姿が入り込むせいか。
そして、辺境と呼ぶにふさわしい場所にムーリフはあった。
町と呼ぶよりも、村、集落と呼ぶべきなのかもしれない。
大地は平坦ではなく、地表が隆起しており、ボコボコと落差のある地面。
建物はほとんどなく、隆起した岩肌を掘り、そこに住居を埋め込んだような、異質な村になっていた。
「……誰もいない」
独特な村の様子を目の当たりにした一言がそれであった。
「だから言っただろ。ここは消滅したんだと」
驚きを口にする僕に、呆れたアカギが口を開く横で、何か違和感を抱いてしまう。
この村には音がなかった。
これまで、何度か何かに襲撃を受けた町を目にしてきた。
そのどれも、“音”は存在していた。
家を焼かれ、灰が燻る音。
襲撃によってケガを負った人の泣き声。
打ちひしがれた苦しさによる怒り。
町全体の雰囲気と言ってもいい。
どこにもそれらの“音”があったのだけれど、ここにはそれがなかった。
建物と呼べる物がないからこそ、そう受け取ってしまうのかもしれないけれど、生活感というのがまったくなかった。
それが気味悪さであったのかもしれない。
だからか、ゴーストタウンに思えてしまう。
「本当に誰もいないんだな」
遠くを眺めていると、散り散りになったアカギの部下らが探索をしているけれど、誰かが村の住民が見つける様子はなさそうである。
「でも、誰かがいたのは確かみたいよ」
奇妙な光景に立ち竦んでいると、リナが話しかけてきた。
「あっちの通路で、焚き火をした痕跡があったわ」
「焚き火? あり得ないだろ。この辺りはもう長いこと放置されていたはずだぞ」
「でも、あったのよ。灰がまだ少し残っていたんだから。昔のことだったら、風に飛ばされているはずだし」
訝しげになるアカギに、リナは反論する。
「隊長っ」
リナとアカギがぶつかり、睨み合っていたところに、通路の奥から一人の兵が声を上げた。
「こっちに奇妙な洞窟があります。どうも人がいた痕跡も残っているようです」
声をかけてきた兵に誘導され、連れられたのは村の奥。
そこは特に地形が隆起しており、大きな壁として立ちはだかっていた。
そして、そこには洞窟らしき大きな穴が漆黒の口を開いていた。
大きく深呼吸をしてしまう。
穴の異様な恐怖もあったけれど、完治していない脇腹が痛み、つい触ってしまう。
大丈夫。こんなの気にするな。
自分に言い聞かせて、歩を進める。
「なんなんだ、この洞窟は?」
洞窟のそばで待機していたハッカイに聞くアカギ。
ハッカイはかぶりを振る。
「どうも、数日の間にここに人がいたのは確かなようです。村の数カ所に人の足跡や、馬のひずめの跡が残っていました」
警戒から語尾を強めるハッカイに、アカギは眉間にシワを寄せて思い詰めるが、リナは「でしょ」と言いたげに、腕を組んで胸を張った。
ったく、何を威張ってるのか。
リナの態度を無視し、しばらく思案していたアカギが顔を上げる。
「よし。俺とハッカイ。それにアオバ。三人で様子を見に行く。後の者は警戒を怠るな」
「ちょっと待って。僕らも行くっ」
命令に従い、動こうとする兵のなか、僕は声を上げた。
「何があるかわからない。怪我人は大人しくしておくべきだ」
警戒からか、アカギの口調は厳しい。
「誰のせいだよ。僕は絶対に行く」
エリカがいるかもしれないのに、退くわけにもいかない。
だからつい嫌味っぽく言ってしまう。
「それに、私たちはあんたの部下じゃない。従う理由はないわ」
立ち塞がるアカギに、リナが助け船を出し、反論する。
しばらく睨み合った後、根負けしたアカギが溜め息をこぼす。
「好きにしろ」
あいつらは、仲間でもなんでもないんだけどな。




