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忘却のテンペスト  作者: ひろゆき


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 第三部  六  ーー  一人じゃない  ーー

 百八十九話目。

    ……あれ、なんか眠い……。

      ってか、意識が……。


 声をかけるべきなのか、ずっと悩んでいた。

 わかっているわ。あなたの苦しみは。

 寂しさはレンガ造りの壁を吐息みたいに通り抜け、伝わってくる。

 きっとあなたは悲しみを胸に押し込めているのでしょう。

 岩になって言葉を発することすら忘れ、己を殺そうとしているのでしょう。


 わかるわよ。


 痛いほどにその苦しさは。

 そう、自分の悲しみみたいに。

 儚い花びらが一枚ずつ散っていくみたいに心は細くしぼんでいくのが辛い……。

 泣いているのよね、泣きたいんだよね。

 私も一緒だから。


 レンガに手を触れた。

 心を隔てた冷たさが手の平を凍らせる。

 こちらの想いを伝えたいのに、レンガが温もりをじわりと奪っていく……。

 心に棘が突き刺されていくみたいで痛い。

 薄いはずの壁が、私と彼女とをかけ離しているみたいに。

 近いはずなのに、遠くなっている。


 このまま黙っておかなければいけない……。

 決して私が声をかけることはできない。

 この子に声をかけることは……。


 でも、黙っているのは辛い。


 きっと大丈夫だって信じたい。

 あなたは一人じゃない。

 きっとその悲しみに押し潰されることはない、と伝えたい。

 もう誰かが悲しみに襲われるのは見ていられないのよ……。


 なんでこんなに悲しみは繰り返されるの。

 もう悲しみも苦しみも、私と妹だけで終わってくれればよかったのに。

 なんでそこに運命は断ち切れてくれなかったの。


 恨みたい……。


 絶対にこんなのって嫌だから。


 大丈夫。あなたに苦しみは必要ない……。

 苦しませない。

 あの子のように。


 あなたは大丈夫よ、絶対に……。


「ーーそんなに怖がらないで……」


 きっと声をかけることはダメなんでしょう。


 でも耐えられない……。


 大丈夫よ……。

 今回で六章目は終わりだよな……。

    ……でも、あれ?


 エリカも…… これじゃ、次はリナに頼むか?

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