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忘却のテンペスト  作者: ひろゆき


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 第三部  第五章  3  ーー  方向性  ーー

 百七十五話目。

    ローズだけは絶対に許せない。

            3



 ここで引き下がってしまえば、ずっと怯えてしまいそうで、両手に力を入れてしまう。


「そっか。あれだけの調合ならまだ助かるってことね。じゃぁ、今度はもう少し調整しないといけないかな」


 話しているのは、人を殺すための話。

 それなのに、あたかも料理に使うスパイスの調合を考えるように髪を撫でて笑っていた。


「ま、誉めてあげるわ。私の毒を解毒したことには」


 と茶化し、ローズはわざとらしく拍手してみせた。


「それより、なんであんたらはこんなことを」


 渇いた拍手を拒絶するべく、リナの声が飛び込む。

 拍手を止められると、険しい形相でリナを捉える。


「あなたを誘き出すための餌。と言えばどう?」


 狡猾な声が響き、口角を上げる。


「そんなことで町の人をっ」

「まぁまぁ。そう怒らないで。ただの冗談よ」


 声を荒げるリナに、ローズは手の平を見せて制し、嘲笑う。


「あの大剣は世界を鎮めるもの。争いを止めるもの。と言われていたわ。そのために必要になるとね」


 グラスに注がれていたものを飲む。


「だからって、町を襲う理由にはならないでしょ。必要なのは大剣なんでしょっ」


 ローズはかぶりを振り、


「争いを鎮めるためには大剣に頼るほどの余裕がなくなったのよ。争いが絶えないからね。だから、私たちは違う方法を目指すことにしたの。そこで大剣の優位性が下がったのよ」

「優位性が下がった?」

「統制への方向性が変わった。と言えばいいかしら。私はその方が楽しいんだけどね」


 目を細める姿はより凶暴性を醸し出しており、それが絶対に望むべきことではないことと悟った。


「だからって、この町を襲う理由になんて……」


 許されない暴挙に言葉を失ってしまう。


「それは私たちの障壁となるものを先に摘み取っておくためよ」


 意味がわからず、眉間をひそめる。


「あんたたち、大剣が目的なんでしょ?」

「だから、言ってるでしょ。もうそんな次元のことを言っている場合じゃなくなったのよ。そうね、私がこの町を襲った理由があるとすれば、運命? それとも宿命? とでも言うのかしら」

「運命? そんなバカげたことでーー」

「バカげてなんかないわ。あなた、歴史を知らないの?」

「……歴史? それってナルスが武器を輸出していたってことか?」


 ヒヤマの話が甦り、つい口を挟んでしまう。


「へぇ。知っていたんだ。なら話は早いわよね。そうよ。ナルスは過去に武器を世界に広げようとする罪を犯しているのよ」

「でも、それは昔の話。今はそんなことをしていないっ」

「今はね。でも明日、十日後、一年後、不穏な行動を起こさない保障なんてないわ。だから、火種は消しておくのよ」

「だから、そんなことわからないじゃないっ」

「いいえ。人は繰り返すものよ。いずれね。そもそも、それこそナルスがいい例よ。太古の戦争で教訓せず、フギとムギの二つの地区で武器の製造は行われた」

「でも、この町は関係ないでしょっ」

「念には念よ。この辺りはね。そもそも、この辺りは懲りもせずエルナと争いを続けていたのだから」

「……エルナ。それってっ」


 ローズから放たれた名前を聞き、戸惑いの顔が僕に向けられた。

 好奇心だけで動いているわけじゃないのか……。

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