第三部 第四章 4 ーー 乖離する信念 ーー
百七十話目。
私に必要なのは私の話だって思うんだけど。
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「きっと世界を束ねた後、国勢は乱れる。それを束ねる柱、帝が必要なのだ」
「だから、それが権力の横暴に成りかねないと、私は危惧しているのだ」
「ーー権力か」
じっとツルギを睨んでいると、根負けしたのか、フンッと鼻を鳴らして顔を背けた。
「あの日記を見つけたのか?」
「お前、あれを知っているのか?」
ここにいるなはツルギの方が長い。ない話ではないか。
ツルギは否定も肯定もせず、顔を伏せる。
「あれは、戦争当時を生きた者の無念の証だ。読んだのならわかるだろう。あれに書かれていた苦しみ、当時の惨劇を」
「わかっている、それは。だが、あれには権力に躍らされた狂気も書かれていたぞ」
まるでツルギの都合のいいように、曲げられていそうなので念を押しておいた。
それでも、聞く耳はなさそうだ。
「なら、当時の者の無念を晴らすために動くのが道理ではないのか?」
反論したいのを堪えておいた。
ここで感情的になるのも違う気がして。
冷静に聞いてくるツルギを否定する。
「それは子孫としての義務か?」
思いがねじれていきそうな不安に苛まれていると、ツルギは迷わず頷いた。
「そんなことを言っている場合じゃないと、私は思うんだけどな……」
「何かあるのか?」
声を震わせていると、ようやくツルギは耳を傾けたので、テンペストについて伝えた。
テンペストは戦争時、戦火となっていた場所を狙い、起きているんじゃないか、という仮説を。
ツルギは難しい表情を崩さない。
「そのためにリナやアネモネに会って、しっかりと話をしなければいけないんだ。大剣が重要であるんだ、と。そこに追い詰めるようなことをすれば、警戒されてまともに話ができなくなるではないか」
だからこそ、追っ手を引かせるべきなんだと詰めるのだが、やはり受け入れてくれる気配はない。
「だったら、なおさら統制を早めるべきなんじゃないのか。テンペストに恐れる心を鎮めるためにな」
強引な理屈でしかなく、頭を掻かずにはいられない。
「それは敗者の恨みを晴らそうとしているとしか私には見えないんだが、違うか?」
「違うな。信念だ。我々のな」
「それは信念と呼ぶものじゃないと思うぞ、私は」
ここで踏み止まらなければ、と強い口調で責めてしまう。
「まだお前のなかで、ナルディアが引っかかっているみたいだな……」
嘆くように、弱々しく呟いた。
「当然だ。あの町で暮らしていた者にとって、戦争だけが争いなんだって考える者はいないのだからな」
「だから言っているんだ。お前は、世界を憂いているんじゃなく、恨みを晴らそうとしているんだ。子供のころの苦しみをな」
「どうだろうな」
いやいや、ちょっと待て。その言い方、横暴だろ。




