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忘却のテンペスト  作者: ひろゆき


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 第二章  5 ーー 町を襲う ーー

 十七話目始まるけど、

     聞くべきじゃなかったかも……。

            5



「ーーはぁ?」


 一度、エリカと顔を見合わせ、互いにパチクリと瞬きをして、ヤマトへと視線を戻した。

 聞き間違いなのか?

 すると、ヤマトの強い眼差しとぶつかった。


「ここは町の中心から少し離れていたから助かっただけなんだ」


 大げさに首を傾げてみるけど、動じることはない。


「もう、二十日ほど前だった」


 そこで、両手で握っていたコップにより力を込めた。


「きっかけなんてなんだったのかわからなかった。家にいたとき、なんか、人の悲鳴みたいな声が聞こえて。なんだろうって外に出て、目を疑ったんだ。町の至るところで、煙が上がっていたんだ。それで慌てて町の方に降りて行ったんだ。そしたら、町に火が放たれていて、火の海になっていた。

 どこの家も燃えていて、屋根が壊されていたりしていて、町の人が倒れていたり、逃げてた。なかには…… 火だるまになって地面で悶えている人もいた」

「……嘘だろ」


 静かに否定をするけれど、ヤマトかぶりを振る。


「情けないけど、僕は怖くなって草むらに隠れていたんだ。そしたら、悲鳴に混じって笑い声が聞こえたんだ。そしたら、逃げる住民を、後ろから馬に乗った奴が剣で斬りつけていた。一人だけじゃない。ほかにも矢で刺されていたりしていた。信じられなかった。つい数分前まで知っていた人が次々に…… 殺されていった。

 気がついたとき、悲鳴がなくなった。みんな死んだんだ。それなのに、僕は何もできずに草むらで丸まるしかなかった。怖かったんだ」


 ヤマトはうなだれるようにイスに凭れ、


「悲鳴が収まったとき、何人もの馬に乗った者の姿があった。そいつらが町を襲ったんだ」


 冗談だというのならば、ヤマトの演技を賞賛するべきか。

 まるで地獄絵図を眺めたみたいに胸がざわめいてしまう。

 しかし、ヤマトにそんな余裕もない。眉間辺りの血管が浮き出そうに唇を噛んでる。


 冗談ではないのだろう。


 言葉を失いそうになった。

 テンペストとしては違和感があったとしても、想像していたこととは違いすぎてる。


「町を襲ったのは山賊か何かなのか?」

 一度息を呑み、聞いてみる。


「わからない。でも、山賊とはまた違うと思う」

「なんで?」

「なんか、統制されていたっていうか、一人のリーダーみたいな奴がいて、みんなそいつに従っていたって感じなんだ。まぁ、山賊にもリーダーみたいなのはいるだろうけど、そういう荒々しさはなくて…… 淡々としてたというか…… それにみんな同じ服を着ていたんだ」

「ーー服?」

「うん。それこそ統一された青い服を、それも汚れてもなくて、みんな綺麗だった。それを見ると山賊とも違うと思う」

「何が目的で?」


 根本的な疑問に、ヤマトはかぶりを振る。


「わからない。僕も怖くて出て行けなかったから、気づいたときには、もう誰もいなかった」

「じゃぁ、あの盛られた土はもしかして……」


 ふと脳裏に町の外れにあった盛り土のことがよぎる。


「……あれは墓だよ。ここに住んでた人の……」


 やっぱり、とは口に出せなかった。

 窓の外、町の墓がある方向を眺めるヤマトの眼差しがとても儚く見えてしまい、唇を強く噛み締めていた。



 なぜ、この町が人に襲われなければいけないのか、その理由は見当もなかった。

 その日はヤマトの家に世話になることになった。


 夜。


 星が地上を照らし、風の音が心地いい、のどかな夜に心を休ませていた。

 久しぶりのベッドは僕をどこかとんでもない楽園に誘ってくれそうだ。

 そんな夢見心地を満喫していたときである。エリカに起こされたのは。

 ったく、人の喜びを奪うのもいい加減にしてほしいものだ。

 文句を受けつける隙もなく、エリカはどこか思い詰めた神妙な面持ちで、僕の腕を引っ張り、無理矢理、表へと連れ出されてしまった。


「どうしたんだよ?」


 呆気に取られたまま連れ出され、声が出たのは家のそばの丘に立ったときである。

 エリカは答えず、夜空をじっと眺めている。

 まぁ、いつものことなので責めることはしないけれど、眠い。堪えきらずにあくびをしてしまう。

 睡魔をごまかして目を擦っていると、緩い風が頬を撫でてくる。

 夜風は野宿したときに、何度も浴びているはずなのに、どこか気持ちよく感じられた。

 穏やかに感じられるのは、ベッドで休んでいたおかげか。

 でも、横にいるエリカの横顔を見ると、エリカは眉間にしわを寄せ、難しい顔で夜空を睨んでいる。

 まったく、情緒も何もない奴である。


「ーーで、どうしたんだよ?」


 気持ちを落ち着かせ、もう一度聞いてみる。


「風の匂いが違う……」

「ーー匂い?」


 また急に奇妙なことを言い出す。

 変な匂いなんて一切ないのに、エリカはこちらを見て目を見開く。


「……テンペストがどこかで起きる」


 途方もない方向を指差した。

 お前も不安なことを言うなよ。

 次に行くにしても、気が滅入りそうだよ。

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