第三部 第四章 1 ーー 資料のなかに隠された物 ーー
百六十七話目。
……また?
またなの?
また私の出番が……。
第三部
第四章
1
どの記載が正しく、どの記載に虚構があるのか?
“蒼”の屋敷に留まるようになり、数多くの資料に目を通していると、虚構に真実が故意に埋められているように見えてしまう。
すべてを疑いたくなりそうだ。
多くの資料が保管された部屋の本棚。
そこに収められた厚い本を取り出したときである。
これを読み終えるのは、一苦労になるな。
肩を落としそうになったとき、その本の異変に気づいた。
本を揺らしてみると、カタカタと音が鳴る。
それは何か箱を持ったときの感触に似ていた。
それに気持ち、本が軽く感じられる。
ふと本棚を眺め、眉をひそめた。
この本は収められた別の本の裏に入れられていたのである。
まるでこの本を隠したがっていたみたいに。
偶発的に見つけたものであったけれど、その保存の仕方に疑念が強まった。
ほこりの積もる本に手を添えた。
……これは禁断の書とでも言うのか?
躊躇はある。
それでも、好奇心がないとは言えない。
歴史を探究している者の覚悟。
そんなこと言えば、詭弁ではあるが、気持ちを鼓舞し、開いていた。
「……これは」
目を剥いてしまう。
開いた本は外枠を残すように、中身がくり抜かれていた。
そこに一回り小さいノートが隠すように入れられていた。
先ほどカタカタと音がしていたのは、角が当たっていたからかもしれない。
入っていたノートを取り出してみた。
こちらは本よりもかなり年季が入っている様子で、表紙は色やけしており、ところどころ破れていた。
誰かの日記らしく、茶色が特徴的に見えた。
同時に隠すように収められていたことに、疑念が強まってしまう。
「ーー?」
日記を出した後の本を眺めていると、日記の下に何重にも折られていた紙が収められていた。
まるで、日記よりもこちらが重要視されているようにも見えた。
日記と同じく、長い間収められていたらしく、折り目は強く残っており、やはり隅が破れていた。
踵を返し、テーブルの上にその紙を開いた。
「……地図?」
折り目を延ばしてみると、眉をひそめてしまう。
どこか違和感が拭えない。
地図上に広がる世界。
それは私の知る世界の大地とは多少いびつな物となっていた。
これは偽物? いや、それにしてはなぜ、このように隠してあった?
いや、そもそもこの形状はどこかで……。
地殻変動でもあったか?
テーブルを見下ろしていた顔が上がった。
「これって確か、家にあった地図に似てるのか……」
それだけ年季がある? それとも……。
頭が混乱するなか、部屋の扉がノックされ、一人の兵が仰々しい表情を浮かべてはいってきた。
「どうかしたのか?」
一目でよくない状況であることは察して、身構えてしまう。
「ーーテンペストが起きたそうです」
弱々しい兵の声。
どこか予想通りの反応であったためか、「そうか」とも返事もできず、顔を伏せてしまう。
「どの辺りで起きたんだ?」
「あ、はい。ナルスの付近だそうです」
「……ナルディアだと」
「……ナル? いえ、ナルスですけど」
「あ、いや悪い。つい昔の名前で呼んでしまった。だが、そうか。ナルスか」
ついテーブルに開いた地図に目を落とした。
そこにナルスという名の町は載っていなかった。
お前の出番はないな。
しばらく待とう。




