第三部 三 ーー 敵意 ーー
百六十六話目。
えっ?
こいつが主観?
私を差し置いて?
チノ、誰構わず睨むな。
ケンカをふっかけてなんの意味があるんだっ。
お前は村を潰す気なのかっ。
村長や村の大人から、数え切れないほどに注意を受けていた。
それは耳が痛くなるほどに。
でも、そんなのは気にせず、怒鳴る大人を逆に睨んで牽制してやった。
ケンカを売る。
それのどこが悪い。
これまでどれだけ私欲に満ちた大人たちと何度もぶつかった。
目は口ほどに物を言う。
よく言うものだ。まったくその通りだと思う。
村で作られた薬を利用すようとする者。
そして、俺ら生け贄を探している者も少なからずいた。
そいつらは口では正論を言っていても、目は歪んでいた。
そんなふざけた連中に負けるわけにはいかず、こちらから敵意を剥き出しにして、立ち向かわなければいけなかった。
そうしなければ、弱みを突かれ、村が危険に晒されかねない。
俺は村を守りたかった。
大人全員を敵にしたとしても。
それなのにっ……。
それなのにあのミントのバカはっ。
ふざけるなよ…… テンペストを追う?
突然村に現れた三人の旅の目的。
それは俺らトゥルスのみんなをバカにしているじゃないか。
確かにあの大剣を手にしていたことに、気持ちが揺らいだかもしれない。
ハクガンから“ワタリドリ”の話を聞いていたから。
でも信じることはできない。
だからあいつらにも敵意を剥き出しにした。
自分らに敵意はない、と振る舞う姿が感に障って腹立たしかった。
どれだけ穏やかにしていたって、奴らの目を見れば、俺はごまかせない。
きっと嘘をついている……。
それなのに……。
……わからなかった。
男は病み上がりもあってか、呆然としていたし、気の強そうな女は微かに警戒はしていたが、嘘をついている様子はない。
ただ、もう一人の女は意味がわからなかった。
何を考えているのかすら理解できなかった。
本当に俺たちを狙っていないのか……。
まだ信用はしていない。
でも本音を言えば、本性が見えず、面倒だから関わりたくなんかない。
かといって、俺も薄情じゃない。多少の恩義もある。
偶発的とはいえ、鍵を開くことで洞窟の泉は再生し、そのおかげで薬を製薬できるようになった。
だから……。
だからヒヤマの居場所を教えた。
あの連中が何を企んでいる……。
村の安全さえ守られるなら、それも正直どうでもいい。
ワタリドリ。
村長は何かを知っているようだけれど……。
何かが動きそうな気がするのは杞憂でしかないのか……。
まぁ、いいだろ。悪い奴じゃないんだし。
それに話の展開だってあるからな。




