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忘却のテンペスト  作者: ひろゆき


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 第三部  第三章  12  ーー  捉え方  (2)  ーー

 百六十五話目。

    世界で一番バカなのは、人だと思う。



「まぁ、それも一理あるかもしれないね。実は、その街ではね、武器の製造輸出がされていたんだ」

「ーー武器?」

「そう。町では大見得切って武器が造られ、その利益によって繁栄していたんだ。それこそ、ここら一帯、フギ地方では一、二を争うほどの繁栄をね」

「でも、武器って言ったって、そんなに需要あるの。戦争なんかかなりの昔なんだし」


 素直な疑問がこぼれた。

 すると、ヒヤマは寂しげに眉をひそめる。


「戦争はね。でも、小競り合いが消えることはないよ。町同士の権力争いや、自衛のために、と武器を必要とする者は絶えることはなかったからね」

「争いは絶えない」


 エリカの小さな断言が鼓膜に響くと、以前に先生に言われた言葉が重なってしまった。


「きっと街で造られた武器は世界に広がり、多くの者の命を奪っただろう。それこそ、彼女の言う通り、街ではある種の殺人鬼を生み出していたんだろうね」

「それでその街はどうなったの? もしかして滅んだとか」


 物騒なことを言い出すリナに戸惑うけれど、リナは真剣な眼差しを崩さなかった。


「だってそうでしょ。それだけ物騒な街だったのなら、人から恨みを買っていてもおかしくない。もしかすれば、暴動だってあり得るじゃない」


 リナの指摘に、反論できない。

 的を射ていて、迷った挙げ句恐る恐るヒヤマに顔を向けた。

 ヒヤマはどこか叱責に似ていたリナの言葉を受け入れるように、小さく何度も頷いた。


「結果的にはね。でも、街に攻めてきたのは人じゃなく、テンペストだった。もちろん、武器を求め、略奪を目的に攻め込んだ者もあったらしいけれど、最終的に街を壊滅させたのはテンペストだったと聞いている。テンペストは街を一度消し去ったんだ。また、この辺りもね」


 街を削って、それによって地面がえぐられてるってこと。

 そんなの……。

 不穏に町を見渡してしまう。独特な段差のある町を。


「それで、この町はすり鉢状になってるってことなのか……」


 特徴的な町を眺め、話を聞いていると、この異質な光景を納得しないといけない。

 気持ちは複雑であっても。


「この祭壇はね、そのとき運よく残っていたもの、らしいんだよ」

「じゃぁ、そのころは祭りも行われていたんだ」

「人ってのは、傲慢で身勝手なものだね。人の命を奪う武器を平然と造って広げるのに、自分たちの命は奪われたくなくて、祭りを行っていたんだから」

「自業自得」


 エリカの元も子もない、強く鋭い叱責は、一気に胸を締めつけていき、奥歯を噛んでしまっていた。

 それでも、ヒヤマだけは薄らと笑みをこぼした。


「だから罰が下されたんだろうね。テンペストは愚かな人々を消し去ったんだ」


 そこでまたヒヤマは顔を上げ、今度は空を見上げた。


「この辺りはずっと曇りが続いているって聞いたろ。それを知ってしまうとね、なんかこう考えてしまうんだよ。もしかすれば、神様はいて、この町を見張ってるんじゃないかなってね。

 また、武器を製造するような暴挙に出るなら、いつでもテンペストを起こしてやる。だから、ずっと平穏に静かに暮らしているんだぞ、ってね」

「神様って、何よそれ」


 リナはバカバカしくなったのか呆れ、ヒヤマは小さく首を振る。


「恐怖ってものは、人の心を縛るのには一番効果的で早いものだよ。太陽を遮断され、時折テンペストを彷彿とさせる嵐を、町の周囲で起こってしまえば、人の心は次第に影響を受けていくよ。「絶対に昔みたいなことはダメだ」と、そのなかでやっぱり考えてしまうんだよ。「神はいるんじゃないか」とね。そして、いつしか恐怖は諦めになっていたんだと私は思うよ。いつこの町が襲われても仕方がないと」


 ヒヤマの言葉は重い。

 ずっと聞いていると、吐き気すらしそうに。


「じゃぁ、なんで祭壇は残っているの?」


 祭りが行われないなか、存在する物の素朴な疑問に、エリカが聞く。


「きっと、戒めなんだろうね。それまでの罪を、痛みを形としておくことで、自分たちを律しているんだ。ま、なかば、諦めているのなら、矛盾している気もないわけじゃないけれどね」


 それは町の人の代弁なのか?

 神妙な表情を崩さないヒヤマに、まだ聞きたいことがあっても、躊躇してしまう。

 それでも留めておけず、言葉が喉を通る。


「でも、恐れていても、テンペストが襲ったんですよね。それって諦めた、で片づけるのって無茶苦茶な気がするんですけど」

「やはり、どれだけ覚悟しても、二度と過ちを犯さないと決意を固めたとしても、上辺だけの気持ちじゃダメだってことだろうね」

「……上辺だけ?」

「奇妙な人影があの忘街傷の付近で目撃されていてね。そいつらが影響で起きたんだと私は思ってる」

「人がいたからって、それじゃ理不尽すぎるじゃないか」

「その連中は武装していてね。横暴な態度を繰り返していたと聞いた。一連が揃って青い服装をしていたみたいだ」

「ーー青い服って」


 あの連中が……。


「きっとテンペストは敏感なんだよ。あの連中は近く、昔の状況に戻そうとしていたんじゃないかって、話があったからね。だから、この町も教われたんだ。それに……」


 一気に不安が積もってしまう。

 あの連中の不穏な動きに。


「……もしかすれば、テンペストが襲いたかったのは……」


 まったく、極端な。

  冷静に考えろ、お前だってその人だぞ。

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