表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
忘却のテンペスト  作者: ひろゆき


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

16/352

 第二章  4 ーー 町に住む者 ーー

 やっぱり、自己紹介は嫌い。

 ……十六話目。

            4



 追いかけっこは終わってくれただけで一安心だ。

 落ち着いたところで、男の名前は“ヤマト”だと教えられた。


「僕はキョウだ。よろしく」


 しばらくして男、ヤマトとはちゃんと話すことができた。


「んで、こいつがーー」

「……エリ…… カ……」


 走り回っていたんだから、「疲れた」なんて言わせないぞ。

 また人見知りが発動している。

 エリカは急にうつむくと、地面に向かってか細い声をこぼした。聞き取れない声に、ヤマトは眉をひそめる。つい笑いそうになる。

 またか。一体さっきまでの威勢はどこに行ったのか。


「気にしないでくれ。こいつは極度の人見知りなんだ。こいつはエリカ」


 獣と対面したわけでもないのに、僕の後ろに身を隠すエリカ。

 僕は苦笑して手を振った。

 ヤマトは呆気に取られ、呆然としている。やっぱり信じられないのだろう。

 だって、さっき襲うとしてたのはエリカなのだから。


「んで、教えてくれないか。この町は本当にテンペストに襲われたのか?」


 話を戻すことにする。

 神妙な声で聞くと、ヤマトはまた表情を曇らせてしまう。

 後ろではエリカが僕の服の袖をスッと引っ張る。

 エリカは力なくかぶりを振る。


「あ、それと、僕らは決して君やこの町に危害を与えるために来たんじゃない。変に思われるかもしれないけど、僕らはテンペストを追っているんだ」

「ーー追ってる?」

「まぁ、信じがたいだろうけだ、本当なんだ」


 一気に訝しげに睨まれてしまった。


 当然である。


 でも、嘘じゃないんだ。ここは真剣な面持ちで向かい合った。

 しらばく睨み合ったあと、ヤマトは顔を逸らし、


「……わかった。でもここじゃあれだし。僕の家に」



 僕らはヤマトの家に迎え入れられた。

 ヤマトの家は町からは少し離れた小高い丘にあった。

 少し町を見下ろす場所にあり、小さな家であったけれど、壊れたりはしていない。

 家の裏にも小さな畑が耕せられており、こちらは青々と何かの葉がしっかりと育っていた。


「……お腹減った」


 テーブルにエリカと並んで座ると、小声でエリカは僕に催促するけど、気づかれないように制止する。


「悪いね。この町は元から大して裕福じゃなくて。これぐらいしかなくて」


 聞こえたのかはさておき、ヤマトが申しわけなさそうに、お茶を差し出してくれた。

 イスに座るヤマトに「お気遣いなく」と頭を下げ、ふと家を見渡した。

 家は殺風景で、必要最低限の物しか置いてなさそうだった。


「ーーで、この町がなんでこうなったかって話だよね」


 テーブルに置かれたコップを掴み、中身のお茶を眺めながら、ヤマトはそっと口を開く。


「なんで君はテンペストの仕業じゃないって思ったんだ?」


 そこでヤマトはエリカを見た。エリカは驚き、顔を伏せた。「どうして?」と問うヤマトの表情に肩をよりすぼめる。


「それは……」


 きっとエリカは喋らない。


 これではただの人形だ。

 代わりに言おうとすると、エリカは僕の袖をテーブルで見えないところでまた引っ張った。

 言いたいことはなんとなくわかっている。


「前にテンペストのことで話を聞いたとき、状況が違ってたから。だからいろんな形があるのかって思ったんだよ」


 カノブでのこともある。

 自分たちがテンペストからの生き残りだってことは黙っておく。


「じゃぁ、なんで君らはテンペストを追っているの?」


 不審がるのは当然である。


「僕らは人を捜しているんだ。その人はどうも、テンペストに関わりがありそうだから」


 旅の目的を隠す必要もないので、話した。

 嘘でごまかせば、逆に舌が絡まってしまいそうで。

 もしかすれば、情報が入るかもしれないし。


「怖くないの、テンペストが」

「そりゃ怖いよ。でも、それ以上に、その人を捜さないといけない気がしてさ」


 ヤマトの怯えた眼差しが向けられ、小さく頷いた。やはりこれだけは譲れない。


「そっか。じゃぁ、残念だったね。この町はテンペストに襲われたわけじゃないんだ」


 そこでヤマトは皮肉っぽく頬を歪めてかぶりを振った。


「襲われていないんだったら、どうしてこんな」

「まだテンペストの方がよかったのかもしれない。憎しみを向ける先が天災だった方が諦めがつくから」

「それって?」

「この町は、人に襲われたんだ」

 人見知りでごまかすな。

 ちょっと気になることは、次に。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ