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忘却のテンペスト  作者: ひろゆき


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 第三部  第二章  4  ーー  変わりゆく者  ーー

 百五十二話目。

    大人の話は退屈。

      なんか、嫌。

           4



 まったく迷いのない言動に、凭れていた背を伸ばし、睨んだ。

 無言がぶつかる。

 部屋の重力が次第に強くなるみたいで、肩にのしかかり、痛くなっていく。

 それでも視線を逸らすことはできない。

 ここで逸らすことは、自分の不安が勝ってしまい、信念が崩れてしまいそうだ。

 不安で息苦しくなっていくなか、先に動いたのはツルギ。

 面倒そうに頭を掻き、わざとらしく唸り声を上げた。


「一つ聞いていいか?」


 時間が動き出すことで緊張が治まってくれ、こちらからも声が出てくれた。


「お前の考える統一というのに、ローズを主軸にするつもりなのか?」

「あぁ、あいつには期待をしているんだけどな。あいつなら、ことをスムーズにしてくれるとね」

「そうか? 僕は話を聞く限り、逆にアカギとやらに任すべきだと思うが」


 ツルギの考えが揺らいでいないのは、アカギの名を聞いても上の空であるからして、痛感させられる。

 それでも最低限の抵抗であると詰めるけれど、ツルギは体の向きを変え、視線を逸らしてしまう。

 取りつく島はない。


「変わったな、お前」


 嘆きが震えてこぼれるが、ツルギに万能はなく、響くことはない。


「何も変わってなんかないさ。目的を達成することに障害が増えただけだ。わかっているんだろ、ヒダカ。お前にもそれは」


 深く胃の奥に、突き抜けていく声に、ぐうの音も出ない。


「人の業が絶えることは絶対にない。だからこそ、力を使ってでも、強引にするべきなんだよ」

「……そうか」


 どうしてだろうか。

 別に強く殴られたわけでもないのに、胸が痛み、反論する気は萎えてしまう。

 また腕を組み、本棚に凭れた。

 今度は何も言い返せない自分が不甲斐なく、惨めになっていく。

 悔しさに喉の奥にしこりが詰まり、言葉を遮断させていた。

 形としてツルギによって論破されてしまい、勝ち誇ったツルギは一度大きく溜め息をこぼした。


「……悪いな。別にお前と口論したくて、来たわけじゃなかったんだけど、つい感情的になってしまった」


 そこでツルギは席を立ち、出口にへ体を向ける。


「私も年を取ったのかもしれんな。若い連中が増えていくことで、長くいることで、変に崇められてしまい、対等に素直に話せなかったからな。話がしたかったんだ」

 

 さっきまで見せていた禍々しい姿は間違いであったのか、と疑いたくなるほど、ツルギの表情は穏やかになっていた。

 それでもこちらの気持ちが静まることもなく、ツルギを睨み返してしまう。

 態度を変えない僕の姿に呆れ、わざとらしく肩を揺らすと、入口へと歩を進めていく。


「……ツルギ、お前、人を信じられないのか?」


 それは最低限の抵抗であったのかもしれないが、抑えることはできない。

 少しは響いてくれたのか、動いていた足が止まり、テーブルに手をつくツルギ。

 多少の動揺が体を刺激させたのかもしれない。


「もう遅いんだよ。もうな」


 静かだが、強い呟きが肌に沁みる。


「やはり、お前変わったな」


 なぜそんなに心が歪んでしまったのか。

 掴みどころのない疑念が、渦巻いていたとき、顔が上がる。


「リナリアとアネモネが関係しているよか?」


 恐る恐る聞いていた。声が震えるのを必死に堪えて。

 あの二人が“蒼”に所属していたことは知っている。

 そして、ツルギの元で活動していたことを。

 さらには、大剣を盗まれた責任からツルギが長らく拘束されていたことも。

 もし、この裏切りとも言える行為がツルギの心を歪めてしまったのならば、僕にも責任がある。

 リナとアネモネを焚きつけたのは、僕なのだから。

 またツルギは黙り込み、重い沈黙が部屋に居座ってしまう。

 息苦しさが支配するなか、ツルギが視線を上げる。


「……もう、遅いんだよ」

 人それぞれあるってことだよ。

    それは僕らと同じでね。

  

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