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忘却のテンペスト  作者: ひろゆき


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 第三部  第二章  3  ーー  警戒心  ーー

 百五十一話目。

  まだ難しい話が続くわけ?

 

           3



 どうも、ローズの名前を聞いてしまうと身構えてしまい、頭を抱えてしまう。やはり体のうちから警告している気がする。


「ローズ隊か。それは気の毒だと思うよ」

「そう毛嫌いするなよ」


 ローズを警戒していると、ツルギは呆れた様子でかぶりを振る。


「その奇妙なことを知っている者は、ほかにいるのか?」


 ローズが危険とはいえ、それとはまた別の話。

 タカクマという者の話が気がかりになってしまう。


「確かアカギが知っていると言っていたな。タカクマから話を聞いたのも彼らしいし」

「……アカギ、か」

「どうした?」


 フッと息を吐き、渇いた笑みを浮かべると、ツルギは眉をひそめた。


「いや、しばらく隊を抜けていた間に知らない人物が増えたと思ってな。それだけ僕らが年を取ってしまったということだと思ってな」


 自嘲気味に頬が吊り上げてしまう。

 ほこりの被った本や資料に埋もれていた時間がそれだけ長かったということか。


「それだけ我々の思想に賛同した者が多いってことだよ」


 ツルギは目を瞑り、顎を擦って受け流した。


「とはいえ、我々の知っている者が減っているのも事実だな。面を通して顔を合わすとすれば、ハッカイくらいか」


 ハッカイ。


 懐かしい名前が聞け、目を閉じて頷いてしまう。

 あいつも生真面目でしっかりとした奴だった。

 仁義のある奴でもあり、まだ隊にいたことに嬉しさが込み上げる。


「あいつは今、アカギの下にいるよ」

「ハッカイが?」


 ハッカイの現状に驚くが、さらに興味も湧いてしまう。

 ハッカイが部下としていても文句を言わないのは、それだけできた人間であるのかもしれない。


「それで、そのアカギという人物は今、何をしているんだ?」

「奴もその行方不明者を危惧して動いているみたいだ」

「なるほどな」


 不穏な動きをせず、人命を優先させる。なるほど。ハッカイが慕う意味もわからなくもない。


「まったく、奴の行動は私には理解できないものだ」


 アカギに感心していると、アカギを切り捨てるような言動のツルギに、頬を歪めてしまう。


「だってそうだろ。我々が進めなければいけないのは、そんなことではないんじゃないのか?」


 疑いの目を向けていたとき、これだけは揺るがない、と体の正面を向けた。


 互いの揺るがない眼光がぶつかってしまう。

 ふと、よぎるものがあった。


 この“蒼”の集団に戻された間際、隊の一部が話していたことが頭に残っていた。

 それはツルギについて。


 ツルギとローズにだけは逆らえない。ツルギの気迫には適わず怖いと。

 あの人には絶対に歯向かってはいけないのだ、と。

 昔の姿を知っている身としては、信じられなかったのだが、今は分かる気がした。

 さっきまで穏やかであった目つきが上がり、ネズミを捉えた獣みたく鋭く、肌に突き刺さる痛々しい空気を体から放っていた。

 まさに鬼みたいな禍々しさがあった。


「……世界統一、か?」

「そうだ。それが我々にとって、最優先事項だと思うけど」


 完全に目つきが変わっている。どこか危うさも放っている。


「だが、物事は何事も慎重に進めるべきだと僕は思うのだけど」


 自分の考えを伝えると、ツルギは鼻で笑う。


「まさか、アカギと同じようなことを言うとは驚きだな」

「アカギも?」


 どこか嘲笑している様子に、不快感は強まる。


「やっぱり甘いな。お前もアカギも、それではダメなんだよ。時には攻めなければいけないんだよ」

「それには手段を選ばないと?」

 もう諦めろ。

  しばらく僕らの出番はなさそうだしな、この様子だと。

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