第二章 3 ーー 町に起きたこと ーー
誰かいた。
絶対捕まえる。
そんな十五話目。
3
「これって、なんの意味があるんだ?」
墓らしき盛り土を眺め、自然とこぼれてしまった。
「触るなっ」
意味がわからず、しゃがみ込んだときである。背中に怒声が浴びせられた。
振り向くと、先ほど逃げられた男が立っていた。
それも、右手にはどこかで拾ったのか木の棒を握り、今にも襲いかかりそうに身構えている。
ちょっと待て。
僕らは争う気なんてないぞ。
「今さら何しに来たっ。これ以上、この町をーー」
瞬間であった。
男は思った通り、こちらに襲ってきた。
途方もない化け物に、恐怖をごまかしながらも挑もうと、棒を振りかざして。
化け物は僕だってか?
けれど、
振り下ろした棒を軽くかわし、背中に回ると右手を掴んで男の背中に回して拘束した。
そのままの勢いで地面に倒れ込み、押さえた。
見た目では機敏に動きそうな雰囲気であったけれど、動きは鈍かった。
まだワガママを振りかざしたエリカの方が厄介か。
こうした動きに慣れていないのか、ちょっと拍子抜けである。
それでも抵抗し、肩をばたつく男。まだ抵抗をしていると、エリカが男の持っていた棒を奪い、振りかざした。
「黙らせる」
「っと、待て待てっ。だあぁぁっ」
スイカ割りでもしそうな勢いに、慌てて声を荒げた。
「止めろっ、エリカッ」
より声を張り上げると、途中まで空を切っていた手を止めた。
エリカは渋々手を下ろした。残念がっているのか、頬を膨らませて。
「クソッ、放せよっ。ふざけるなっ」
エリカに安堵する隙もなく、地面に押しつけられたまま、男が叫ぶ。
ったく、まだこっちの問題があったんだ。
「ちょっと落ち着け。そっちが何もしなければ、僕らは何もしない」
「ふざけるなっ。お前らーー」
「僕らはただ、このこの町がテンペストに襲われたって聞いたんだ。だから来たんだ。事情を聞かせてくれっ」
つい声に力が入って怒鳴ると、ようやく男は暴れるのを止め、静まった。
やはりテンペストが関わっているのか、と嘆きながら男を開放した。
男は立ち上がると、まだ興奮しているのか、息を切らしている。
肩を揺らしながら、服についた砂を払っていた。
また逃げ出さないか、と隣で棒を構えているエリカを制し、立ち上がる。
男に先ほどの敵意は消えていた。
今は動揺が体を支配しているようで、目が泳いでいた。
もう逃げる素振りはなさそうである。
でも、この町に何か不穏なことがあったのは状況から見て取れる。
向かい合って気づいたけれど、男は細い子であった。
怯えてはいるけれど、目が吊り上がっていて、顎も尖っている。やはり冷たく見えてしまう。
まぁ、偏見かもしれないけど。
雰囲気からして、僕らより少し年下だろう。十五才はいっていないだろう。
体力はなさそうだ。
さらに、まだ何かに怯えているようだ。
「なぁ、教えてくれ。この町に何があったんだ? こんなことになるなんて、尋常じゃない。やっぱりテンペストに……」
襲われた、とは喉を通ってくれなかった。
それでも男は動揺したのか、より目を泳がせている。
「あぁ、そうだ。この町はテンペストに襲われた」
小さく頷いたあと、震えた声で呟くと、うつむいてしまう。
そうか、と肩を落とし振り返ると、崩れた町並みを眺めた。
なぜだろう。胸苦しさが拭えない。
「……違う」
顔を逸らし、怯えた様子の男に違和感をぶつけようとすると、エリカが静かに呟いた。
エリカは鋭い眼光を町並みにぶつけていた。
それはどこか憎しみを途方もない方向にぶつけるように。
「これはテンペストじゃないでしょ」
まぁ、待てって。
事情は次回聞くことにします。




