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忘却のテンペスト  作者: ひろゆき


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 第三部  第二章  1  ーー  復隊  ーー

 百四十九話目。

   私って、置き去り?

    それって、酷くない?

          第三部


          第二章


           1



 テンペストはなぜ、町を襲うのか?

 漠然とした疑念を抱くようになったのは、最近になってからかもしれない。


「……エルナだったな、確か」


 これまで好奇心を突き動かしていたのは、自分の知らないことを知り、教養を深めたかったから。

 真っ白なノートをぎっしりと文字で埋め尽くしたかったから。

 歴史を調べ、知ることでこの空虚感を埋められると信じていたから。

 だからこそ、歴史以外にあまり興味は傾かなかったけれど、リナが連れて来たあの二人、キョウとエリカの話を聞き、考えることが増えていた。

 二人はテンペストに襲われながらも、その命が助かったことに。

 テンペストを調べれば、見えない歴史の部分も見えてくるのでは、と考えが変わっていた。


 ただ、自分は立場上は“蒼”の一員。

 革命を起こす大義より、探究心を取り、隊を抜けた身ではあったけれど。

 正直、ローズという者に拘束されたことで、自由を奪われると危惧していたけど、それは杞憂に終わってくれた。

 屋敷のなかとはいえ、自由に動くことは許されていた。

 いや、どちらかといえば、監視の目は厳しく、軟禁状態であるかもしれぬが、それでも調べることに時間を費やすことができるのが嬉しかった。


「……しかし」


 調べたいことがあり、連れて来られた部屋に僕は圧倒させられた。

 広大な部屋には、高い天井まで格子状の棚があり、そこにはみっしりと本が詰められている。

 それらはどれも保存状態もよく、自分の資料とは比べものにならない、貴重な物ばかりであった。

 誰がこれだけの物を集めたんだ、と驚愕するのと同時に、歴史を重んじる態度に敬意をはらいたくなった。

 そこでテンペストに関わる資料をテーブルに広げ、調べているのだけれど、あの二人が助かった経緯や、似た状況を見つけることはできない。

 床に胡座を組んで座り、本棚に凭れてしまう。

 行き詰まり感に溜め息がこぼれ、頭を掻き毟っていた。

 呆然と天井を眺めても、答えは降ってはこず、唇を噛み締めてしまう。

 テンペストについての記載ならばどれも似たようなものばかり。

 何が目的で、なんの意図があって起きているのか、そうした記載はどれを調べても、浮かび上がることはない。

 何か法則性なものがあるならば、見えないものも見えてきそうなのだが……。


「わかっているのは、数多くの町を襲うこと、ということだけか……」


 嘆きながら、腕を上に向けて伸ばした。

 ……何が先生だ。何もわからないじゃないか。

 これまで博識だの、先生だの、と崇められていたのが、恥ずかしくなってしまう。

 今は、何も掴めていないじゃないか。


「なんだ、お手上げ、とでも言いたげだな」


 限りない叱咤を自分に注いでいたとき、部屋の入口の壁をノックされ、嘲笑った声が部屋に充満した。


「巧妙高きヒダカであっても、歴史を紐解くことは一筋縄ではいかない、ということか?」

「よせ、ツルギ。皮肉をどれだけぶつけても、僕は何もしない」


 首筋を擦りながら、嫌味ったらしく話す男、ツルギを制する。

 相変わらず鋭い目つきや力強い体格から放たれる威厳は計り知れない奴だ。


「その蒼眼でも、見えないものはある、ということか」

「それ以上、挑発したって何もしないぞ。子供じゃないんだしな。止めておけ」


 背が高く、屈強な体格からか、立っているだけで、威圧感があり、数多くの者を屈服させる雰囲気は、冗談を口にしていても拭えないでいた。

 年を重ねることにより、増していた風格すらも相まって、腕を組んで立たれていると、より逆らう者はいないだろう。


「茶化すなら出て行ってくれ」


 ただ、僕には通用しないけど。

 僕はぞんざいにあしらい立ち上がると、別の本棚に向かい、新たな本を探し出した。

 こいつとは昔からの付き合い。

 もうこいつの容姿には慣れているし、見た目で萎縮なんかしない。

 それをツルギも理解しているのか、照れ隠しで口を尖らせ、小さく首を振っておどけた。


「ふざけるなよ。それでも、隊を成す者か。隊員に見られても知らんぞ」

「だからだろ。少しは気を休ませろ」


 フウッと頭を掻き毟り、倚子に座ると、大きく仰け反り、頭の後ろで腕を組んだ。


「……ったく。ここは休憩所か何かなのか……」


 注意をしても無駄らしい。やはり、無視することにしよう。


「それより、冷たいじゃないか、ヒダカ。お前も」

 

 一冊の本を開き、読み始めようとしていたが、手が止まってしまう。


「なんのことだ?」


 責められる覚えはないのだけれど、つい問い返してしまう。


「だってそうだろ。復隊したというのに、私にあいさつもないとは冷たいじゃないか。それで私は来ただけだよ」

「……復隊、か」

「ーー違うか。戦略家ヒダカ殿」

 眠ってたお前が悪いんだろ。

 寝てるからって、話は止まらないぞ。


 ということで、僕らの出番はわからないですけど、話は進みます。

 どうか応援よろしくお願いします。

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