第三部 一 ーー 気がかり ーー
百四十八話目。
私が寝てる間にまた……。
なんなの、私の扱いって……。
何か思い入れでも?
と、問われれば……。
それほどまでに気にも留めていなかった。
会話が進むなかで、ぼんやりと頭の隅で浮かび上がる程度の存在でしかなかった。
エルナという町は。
世間的にもあまりいいイメージを抱くことのない町であった。
町を歩いていると、どこか目に見えない不安みたいなものが地面を這い、彷徨っているようであった。
一歩進むたびに、重たい空気が足にまとわりつき、油断すれば引っ張られ、倒れてしまいそうな危うさがあり、気がずっと張り詰めている気がした。
人の強欲が住み着いているみたいに。
エルナに住む人々は、強欲に塗れながらも、ある意味、純粋に生きているのだろうと見ていた。
今なら、そんなことも脳裏に巡るようになっていた。
“想い”を探り、偶然にも立ち寄っただけの町でしかなかったのに。
あれは、誰かの導きなのか、と問いたくなる。
それだけ、あのときの俺の行動は、普段の動きからすれば、常軌を逸していたのかもしれない。
軽い頭痛が額を押しつけるなか、溜め息がこぼれてしまう。
最近、暇が生まれれば、エルナのことを考えてしまう自分が嫌になってしまいそうだ。
これも、あのとき俺が助けた二人が多少なりとも影響していたのかもしれない。
気を抜き、呆然とある方向を眺めていると、自然とエルナが存在していた方向であることに愕然となることが多い。
今もそうである。
「なんか、嫌な気がするな」
「あら、あなたも何か感じることができるの?」
遠くを眺めていると、後ろで立つアネモネが嬉しそうに聞いてくる。
「茶化さないでほしい。俺にだって見えなくても、空気を読むことぐらいはできるさ」
「ーーそう」
どうも今を楽しんでいるようにしか見えない。
まぁ、それだけ彼女は強いということなのか。
いや、半ば無理をしている場合もあるだろうけど。
「やっぱり気になる? エルナのことが」
「だから言っているだろ。茶化すのはやめてほしい。あなたは見ていて、そんなことを言っているのか?」
少し語句を強めた。
どうしても遊ばれている気がしてしまい、胸がぞわぞわしている。
どこか八つ当たりなことに怒るかと覚悟していると、意外にもアネモネの笑い声が弾け、手を叩いていた。
呆気に取られ、振り向くと、アネモネの笑顔とぶつかる。
「何も私だって千里眼があるわけじゃないわよ。人の気持ちまでは見えないもん。ただ」
「ーーただ?」
そこでアネモネは寂しげに眉を下げた。
「セリン、あなたがどこか悩んでいるみたいに見えるの」
俺が悩む?
「何か心配事でもある?」
ハッとした。
平静でいられているか自信がないほどに、アネモネの言葉が胸を貫いた。
俺が心配していること……
それは……。
あの二人か?
つい自問してしまった。
いや、それは幸運だったと思う。多分ね…。




