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忘却のテンペスト  作者: ひろゆき


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 第三部  第一章  8  ーー  責められる者  ーー

 百四十五話目。

    ざまぁみろってこういうことなのかな?

           7



「なんか、言い様ね」


 “蒼”の者が詰められる光景に戸惑っていると、リナは毒を吐いて蔑んだ眼差しを男に向けた。

 

「蒼の連中って、なんだかいつも偉そぶっているのよね」


 何かあったのか? と聞く隙も与えず、リナは蒼をじっと睨んでいる。


「それよりいいのかよ。バレたらどうするんだよ」


 悠然と腕を組んで立ち竦むリナ。

 どこかフードをめくってしまいそうな勢いを感じてしまうリナを制する。

 しかし、違和感がある。なんで“蒼”が倒れて……。


「お前らが悪いんだよっ」


 轟いた怒号に頬を歪めた。

 倒れていた蒼が罵声を浴びせられていた。

 住民の輪が広がり、罵声が聞き間違いじゃないんだと痛感させられる。

 住民の一人が蒼のそばで立ち竦んでいる。

 それも、今にも馬乗りになり、殴りかかりそうである。

 そんな鬼気迫る表情で蒼を睨んでいる。


「何かあったんですか?」


 同じように集まっていた、隣にいる男に聞いてみた。男も憎らしそうに蒼を睨んでいる。

 そんなに一方的に横暴な態度をしているのか?

 まかりなりにも相手は武器を持った乱暴な奴なんだけど。

 

「隣の町でね、人が行方不明になることがあったんだ」

「行方不明? でもそれとあの人がなんで?」


 何か事件が起きたらしいが、それと“蒼”が関わりありそうになく、疑念に思ってしまう。


「あいつらがなんなのかは知らないが、あの連中が町に現れるようになってから、どうも人が消える頻度が増えているみたいなんだ。なかでは、連中が関わっていると言う者もいてね。それで、それであいつらが町にいると、ピリつくんだ」


 どこか言葉に刺を含ませる男。やはり憎しみをぶつけるようにして。


「だからって、あいつがーー」

「それにね、先日隣の町に行っていた子が見ていたんだって。あの連中は横柄にしていたらしんだ。命令口調になって、身勝手に暴力を受けた者もいるらしいんだよ」


 別に庇う気はないけれど、罵倒ばかりだと耳がいたくなりそうだ。

 どこか、一方的な妬みに聞こえてしまうなと思っていると、隣にいた老人が口を挟んできた。


「特にそのなかの一人が酷かったらしくてね。女の人だったらしいけど、男でも怯えるほどだったらしいんだ」

「……女の人ねぇ……」


 どこにでも、恐ろしい人物はいるもんなんだな、となぜか感心してしまう。

 何しろ、ある意味規格外の女の子はすぐそばにいるのだから。

 大食いのエリカに、怪力のリナ。

 気づかれないよう、二人に視線を動かすと、二人とも厳しい視線を騒ぎに向けていた。

 リナが警戒するのはわかるのだけれど、エリカまでもが興味を向けているのは珍しい。

 それにしても、と不快感も拭えない。

 この騒ぎを誰も止めようとしないのか、と。

 相手は武器を持っているんだ。いつ危害が広がるかもしれない。

 それでも憎しみなどが体を縛り、僕が足を動かないでいると、一人の住民が怒号を響かせる男を、背中から押さえ込んだ。

 突然押さえられた男は当然ながら、体を揺らして抵抗するが、屈服のいい男がそれ以上の力で押さえようとする。


「止めろっ。こいつを責めたって意味はないだろっ」

「放せっ。こいつらはあいつを殺したんだぞっ」

「だから、それは噂だろ。あの子がいなくなったのと関係があるかはわからないじゃないかっ」


 さっきの話に関わっているのだろう。

 押さえ込まれている男は、目を血走られて怒りを爆発させている。

 知人が行方不明になるのは同情するけれど、それを一方的に責め続けるのにはどこか常軌を逸している。

 弱い者への八つ当たりにしか見えず、哀れに見えてしまう。

 これ以上見ていても空しいだけ。

 深い溜め息をこぼし、エリカとリナに「行こう」と肩を叩いて促すのだけれど、二人はその場を離れようとしない。


「違うっ。あいつはこいつらに殺されたんだ。あの蛇みたいな女にっ。こいつはその女の隣であいつが殺されるのをヘラヘラと笑っていたんだっ」


 体を反転させ、その場から離れようとしたとき、男が叫喚したところで、僕の意識は引き留められる。

 意識とは裏腹に体は振り返り、眉間にシワが寄る。


「……蛇って……」

「……嘘でしょ。そんなこと……」


 僕を挟んだエリカとリナが小声でこぼすと、驚きで目を丸くして互いに顔を見合わせている。

 僕の知らないことを確認し合うみたいに。


「あの女、ローズって奴は、自分が気に入らないからって、あいつに毒を…… それで、倒れて苦しむ姿をこいつはっーー」


 ーーローズって。


 なんだろ。名前を聞いた瞬間、急激に背中に悪寒が走る。

 全身が固まってしまう。

 それなのに鼓動が激しく脈打ち、息が次第に上がっていく。

 辛うじて、動き出した右手の手の平を眺めていると、小刻みに震えていた。

 怯えて、る?

 刹那、黒くくすんでいた脳裏に光が差し込み、一人の女の顔が現れた。

 色白で、口角を吊り上げ狡猾な笑みを浮かべる女。


「……ローズ」


 そいつがベネトで出会った女だと理解した瞬間、怒鳴っていた男を呆然と眺めてしまう。

 確か、僕もそいつの毒にやられたはず……。


「その女が現れた町ってどこなのっ。教えてっ」


 事態を思い出したとき、そばにいて、事情を話してくれた男の胸ぐらを掴んで叫んだのはエリカ。


「早く教えてっ」


 エリカは男の顔を引き寄せ、声を荒げた。

 見ず知らずの人物に迫る姿に唖然となった。

 いつもなら、物陰に隠れたり、奇妙な喋り方となるのに、今は感情を剥き出しにしている。


「落ち着いてエリカ。例えローズの仕業だってわかっても、今の私たちじゃ何もできないでしょ」


 エリカの腕を掴み、諭すリナ。

 それを拒むようにエリカは力強くかぶりを振る。


「絶対にあいつだけは許せない。許したくないっ」

「わかってる、わかってるからっ」


 何が起きていたんだ?

 珍しく感情を露わにするエリカは声を震わせ、なおもローズの居場所を急かすし、リナも止めつつも、どこか事情を察して押さえている。

 僕の知らないことが二人にあったみたいに。


「早く教えてっ」

「キエバだ。俺らはそれしか知らない」


 エリカの気迫に負けた男が、息を詰まらせながらこぼした。


 

 ……お前な。ちょっと怖いぞ。

   にしても、体が震えてるな、僕……。

   

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