第三部 第一章 6 ーー 町の雰囲気 ーー
百四十三話目。
ようやくご飯。ようやくっ。
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「……どうだった?」
宿の部屋に戻り扉を開くと、奥にある窓のそばで、リナは壁に凭れて外の様子を伺っていた。
部屋に入った途端、大きく溜め息がこぼれた。
密封された空間に入った途端、気分が軽くなってしまうのだから、皮肉なものである。
ここで休憩、といきたいのだけれど、両手に抱えていた荷物をテーブルに置いた途端、エリカは椅子に座って両手を合わせた。
「ーーいただきます」
僕とリナとで重い空気が漂うなか、エリカは一人勝手に食事を始めてしまう。
あまりに身勝手な行動に、僕らは呆れるしかない。
「ーーで、どうだったの?」
「うん。気づいたのは七人? だったかな。でも、夜だから気づかないだけで、まだいるかもしれないけれど」
「ーーそ。意外と少ないのね。それだったら、ここに集まっていた、じゃなくて立ち寄ったって考えてもいいのかな……」
そこでようやくフードを捲ってマントを外した。
「大丈夫。もう誰もいない」
まだ険しい表情を崩さないまま、銀髪を撫でて整えていると、すでに焼き魚料理を食べ始めていたエリカは呟いた。
どれだけ自信があるんだよ、ったく。
揺らぎのない断言に、僕とリナは一度顔を見合わせた後、クスっと笑ってしまう。
どうもエリカの前では、緊張を持続させるのは難しいみたいだ。
飲食店もなく、食料を買い出しに行っている間、この町に紛れている“蒼”がほかにもいるのかを探っていた。
それでも気づけたのは七人だけ。
さて、ここはエリカの直感を信じておくべきなのか。
何より、僕も腹が減っていたので休みたいし。
目の前ですでに大口を開いて食べているエリカを見ていると、僕の腹の虫も限界らしい。
「あ、でもさっき変な噂を聞いたんだけど」
ようやく食事を摂ることになったけど、フォークを持った手を止めて口を開いた。
「変な話?」
テーブルを挟んで向かいに座っていたリナも手を止め、眉間にシワを寄せた。
「うん。なんか、この辺りは天候が不安定でほとんど晴れないんだって」
「それって、ただ天気が悪いって話じゃないの? それとも、この辺りまで幻高森の影響が広がっているの?」
やはりリナも察したのか、すぐに指摘したけれど、すぐにかぶりを振った。
「なんか、この町って静かだけどさ、昔に町全体が何か大きな問題を起こしたみたいで、それが原因で天候が悪くなったって話していたんだ」
「何それ? やけに曖昧な話ね。何か地殻変動でもあったの?」
「さぁ? なんか話じゃ大きな罪を犯したって言っていたけど」
話は天候が悪いと言っていた店員から聞いた。
昔、この町は大きな罪が犯されたと。
詳しいことは町の人らも覚えていないらしいが、罪を犯した、とだけ受け継がれていたという話だあった。
「それこそ何? なんか、神に逆らったとでも言うの? それこそ罰だって言うなら、テンペストでも関わってるの?」
「いや、そこまでは僕も知らないけれどさ」
何かが起こればテンペストに関わりがある。
とは考えたくはないのだけれど、どうしても疑いたくなる。
焼き魚にフォークを突き刺し、一切れを口に運んでいたとき、フォークを口にくわえたまま止まり、ふと窓の外を眺めてしまう。
「そういえば、この町って祭壇がなかったよな」
買い出しに町を回ると、祭壇がなかったことを思い出し、声がもれた。
「それっていいことじゃないの? 生け贄に依存していないってことで」
「まぁ、そうなんだけどさ。でも、これまで祭壇に対していろいろあったから、なんかなって思ってさ」
言葉は悪いけれど、物足りないのである。
「ミントの村にもなかった」
唐突にエリカは呟く。
すると、リナはクスッと笑った。
「それはそうよ。あの村で祭りなんかしちゃったら、それこそ本末転倒でしょ」
「じゃぁ、この町もあの村と同じ考えで祭りを嫌ってるってこと?」
「さぁ。そこまでは私にもわかんないけれどね。テンペストを怖がっていないのか、襲われないっていう変な自信があるのかは」
エリカは珍しく手を止め、話に加わっていた。
真剣な眼差しをリナに向け、疑問を投げかけている。
つい考えを止めてしまった。
もちろん、疑問に対して答えが見つからないのもあるけれど、エリカの反応がどこか嬉しかったのかもしれない。
食べることと違うことに興味を持ったことが。
二人の口論を眺め、コップに手を伸ばしたとき、ふと視線を上げた。
「それって、さっき聞いた天候が悪いのと繋がっているのかな?」
コップを口元に持っていきながら呟くと、エリカとリナの視線がこちらに向けられる。
「何それ?」
パンを千切って口に運びながら聞くエリカに、首を捻ってしまう。
自信が持てなかった。
「それとこれとを繋げるのはまだ早いんじゃない?」
エリカの疑問に負けそうになっていると、リナが倚子に凭れた。
「ただ、依存していないだけかもしれないし、別の存在が関わっているかもしれないし」
話をしていても、ご飯を食べる手はずっと動いていた。
それどけこの町の料理は美味しいのだけれど、そこで急にリナの顔が強張った。
「“蒼”の連中が関わっているかもしれないわよ。あいつらも祭りに依存はしていないし、この町でも見たのは確実だからね」
もう少しこの美味しい料理を堪能したかったのだけれど、それも許してはくれないみたいだ。
エリカも手を止め、唇を噛んでいる。
「最悪なことが起きなければいいんだけどな……」
ったく。
ほかに気をつけることもあるだろう。
いろいろとな。




