第三部 第一章 4 ーー クトルの町 ーー
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突然、発したエリカに怪訝とする長老ら。
当然だよな。これまでのことを知らないんだから。
困惑して目を丸くしているミントらに、エリカの感覚を伝えると、その場にいた四人はしばらく黙ってしまう。
まぁ、当然だろうな。
「テンペストを感じる?」
重い口を開いたのは長老。威圧感をそのままエリカに向けた。
やはり僕の知らないところでぶつかろうとしていたのか、エリカも負けじと睨んでいる。
これまで蔑まされてきたこともあるから、その反動が態度に出ていたのかもしれない。
「不思議なものだな」
「へぇ。信じるんだ」
疑うこともなく、受け入れる長老に、どこか皮肉を込めた口調でリナが突くと、長老は静かに口角を吊り上げた。
「アイナ様のこともあるからな」
何か重いものを受け入れるみたいに、納得して深く頷いた。
僕らの方が逆に驚くほどに。
真意が掴めないなか、長老はエリカを見据える。
「お主はあの洞窟によく行くようだが、それはなぜだ?」
「別に。ただ、あそこはなんか落ち着くから」
「……何か見えるものはあったか?」
エリカは小さくかぶりを振るだけで、答えはしない。
それでも長老は強く追求することはなく、顔を伏せていた。
ミントはもう一日村に留まることを薦めていたけれど、異変を察したエリカに促され、その日のうちに村を出ることとした。
僕としても、体の状態も悪くないので、出発することにした。
それにここで躊躇してしまえば、またエリカの機嫌が損ねそうだ。
ーー クトル。
新たな町に辿り着いたのは、村を出て二日の昼ごろになっていた。
村を出るころはまだ空は機嫌が悪く、重い雲が広がっていたけれど、一晩明けると次第に青空が開けるようになっていた。
やはり幻高森なんだろうか、と太陽を眺め、眩しさにそんなことを考えてしまう。
「……静かな町なのね。ここも」
このまま晴れていれば、と思っていると、隣で歩いていたリナが町の様子を伺いつつ呟いた。
町に近づいてからはリナも警戒を強め、マントを羽織ってフードを深く被った。
そうだな、と頷きながら町を眺めた。
町に辿り着いて安堵したいんだけれど、どうもゆっくりできない。
完全復活、なんて高をくくっていたけれど、やっぱずっと歩いていると疲れるのかな。
町はさほど大きくはない。これなら、ベネトの方が栄えていそうだ。
それでも、立ち並ぶ住居はどれも立派に見えた。
白い壁で円錐状の屋根が特徴的な町。
町を歩く人々も、これまでほどの活気のある人々には見えなかった。
寂しいというわけではないけれど、町全体が静かに思えてしまうだけだろう。
ここは早く宿屋を見つけるか、飲食店を探すとしよう。
そうしなければ、またエリカの機嫌が悪くなりそうだ。
現にエリカだけは町の様子に興味抱いているのではなく、特徴的な建物を凝視していた。
きっと飲食店を探しているのだろう。
最初の目的はどこに行ってしまったんだ?
空の様子を伺う素振りはまったくない。
天気はすでに晴れてんだけどね……。
「なぁ、エリカ。お前、どうなんだ?」
僕とは違う目的で目を輝かせてキョロキョロするエリカ。
足を止めたエリカは振り向き、憎らしく唇を噛んでいた。
「お腹減ったんだけど」
目尻を吊り上げ、怒りをぶつけられた。




