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忘却のテンペスト  作者: ひろゆき


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 第二章  2 ーー 広がる廃墟 ーー

 ここって、町?

 そんな十四話目。

            2



 どこか、息苦しい。

 町を歩いていると、水のなかを歩いているような、そんな重苦しさが足首に絡まっていた。

 町の家はどれも屋根が壊され、瓦が地面に落ちていたり、壁が剥がれ、梁が露出したりと、綺麗に残っている家は一件もない。

 すべての家が瓦礫に埋もれている漠然とした町になっていた。

 何か化け物にでも襲われたか、あるいは地震が起きたのか、町全体が悲鳴を上げているみたいに空気が震えていた。

 言葉を発することはできない。

 無言で表情が緩むことはなかった。

 どの家も扉がないところが多く、歩きながら不審に眺めていると、奥に漆黒の闇が広がっており、そこに体が吸い込まれそうになってしまう。

 どこか、町全体が得体の知れない化け物であり、大口を開いているような、不気味さが漂い、恐怖に襲われた。

 それにずっと人影がいない。

 町の住民は、この化け物に呑み込まれたのかと錯覚してしまう。

 やっぱり、エリカは道を間違ったんじゃないのか。

 本当はここは町なんかじゃないとか……?

 緊張が体を縛り、足が上手く上がらなかったときである。

 右肩をポンッと叩かれたのは。


 化け物に気づかれた?


 いや、そんなはずなはい。エリカだ。

 ビクッとなるのを必死に耐え、怯えているのを悟られないようにしていると、エリカの手は肩から放れようとしない。

 むしろ、何かを訴えるように、力を込めていた。

 何かを促しているようで、エリカの視線の先を眺めた。


「あれは?」


 通路の先に、一人の人影が見えた。

 町は寂れていて、通路もちゃんと整備されていない。

 風が吹けば砂埃が起きそうで、一瞬砂に邪魔されて視界が霞むけれど、確かに一人の男がいた。


「ーーおいっ」


 声をかけた瞬間、隣にいたエリカが地面を蹴り、男の方へと走ってしまった。

 風になびく髪を眺めてしまった。

 それほどまでに間髪入れない反応だったので、遅れてしまった。


 ったく、あのバカ。


 無闇に動くな、と文句を言う隙はない。

 慌てて後を追ったけれど、こちらに気づいた男も急に走り出し、家の影に消えてしまった。

 それをエリカは懸命に追っている。


 まったく。速すぎだ。


 男との距離はかなり離れているので、素直に追っても追いつけそうになかった。

 闇雲に走るべきではなく、僕は脇道に逸れた。猪みたいに突進させるのは、エリカに任せよう。


 けど、なんで逃げるんだ?


 逃げられる理由もなく、ひたすら地面を蹴った。

 しかも、初めて来た町だ。右も左もわからない。

 これじゃぁ、エリカを責められない。結局は闇雲に走るしかないのだから。

 しかし、足場の悪いところを走っていても、違和感は拭えない。

 やはり、住民が一人もいなかった。


 ここは町だよな?


 閑散として人がいないことに首を傾げていると、前の脇道から人影が突如現れた。

 うわっ、と声を洩らす隙もなかった。男は咄嗟に何かを投げてきた。

 反射的に顔を手でかばい、仰け反ってしまう。

 なんなんだ、と首を振って手を下ろすと、男はその場から消えていた。

 どこに消えたのか、また逃げられてしまった。


「クソッ。なんで逃げるんーー」


 悔しさを地面にこぼすと、足元には数本の花が散らかっていた。

 地面に散らばる色とりどりの花。

 さっき、投げられたのはかのれだったのか。

 どこかで売られているような、束ねられてはおらず、咲いていた花を直に抜いたみたいだ。

 一瞬ではあったけれど、男はどこか鋭い眼差しをしていた。

 花を摘むような顔ではなく、不釣り合いに見えてしまう。

 無残に落ちた花を避けながら、先に進んだ。

 今は感傷に浸っている間はない。


 男はどこに?

 ってか、エリカもどこだ?


 どうも、迷ったみたいだ。仕方がない。まずはエリカを捜そう。



 情けないけれど、それからは男と遭遇することはなかった。

 誰もいない道を歩き、男を捕まえられなかった惨めさに苛まれてしまう。

 脇道をふと覗いたときである。


 ふと足を止めた。


 脇道の先にエリカを見つけた。

 すぐさま駆け寄り、脇道を抜けた先は畑が広がっていた。町が耕せていたのか。


「……なんだ、これ?」

「わかんない」


 エリカの隣りに立ち、畑らしきところを眺めて首を傾げた。

 本来ならば、野菜の葉が出ていてもおかしくないところに、いくつもの盛り上がった土の塊が並んでいた。

 それはいくつも整然と並んでいた。その一つ一つには、何かを表しているのか、棒が一本刺されている。


「……お墓みたい」


 浮かんだ言葉を、寂しげにエリカは呟く。

 仮にそうなのならば、かなりの数になっている。一つ、二つではない。

 それこそ、本当に墓だとするならば、町の住民ほどではないか、と疑いたくなるほどの数であった。

 誰だ、あれ?

 次回も探さなきゃいけないようです。

 よろしくお願いします。

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