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忘却のテンペスト  作者: ひろゆき


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 第三部  第一章  1  ーー  完全復活なのか  ーー

 百三十八話目。

    ようやく私らの出番なの?

          第三部



          第一章



           1



 左手の指を一本ずつ立てていき、手の平を眺め、一本ずつ閉じて拳を眺めた。

 単純な作業を何度も繰り返し、動きを止めてしまう。

 大丈夫。かなり体の痺れが取れてくれた。

 自然と頷いてしまう。

 トゥルスに滞在し、もう五日がすぎようとしていた。

 これまでじっと動かない日がなかったはずだな。

 ミントと呼ばれた女の子の厚意で部屋を用意してもらい、ベッドに長く眠っていても、、こうして天井を眺めていることに、もう飽きていた。

 体に痣なんかは残っていない。痺れもない。完全復活、とでも言うべきか。

 それでもまだ信じられない。

 僕自身が毒にやられて数日経っていたことに。

 確かにあの洞窟で目覚めたときは、意識は朦朧とし、体の先は痺れが残っていた。

 だからか、二日ほど手を握ったりするのが癖になっていたのだけれど、左手を眺めていると、その心配はなさそうである。

 数日休ませてもらえたのだから、体は軽い。

 

 よしっ。


 頬が緩み、声をもらしてしまう。

 ベッドから身を起こし、体を解した。やはり悲鳴を上げる部分はなさそうだ。

 アクビを堪え、部屋を見渡すが、エリカもリナも姿はなかった。

 放っておかれてる?


「……一応、僕って病人なんだよな」



 眠ることが続いていたせいか、アクビを堪えながら、二人の姿を捜しに部屋を出た。

 そこは村長の屋敷らしき一部屋。

 二人を見つけられないまま、建物の外に出てみると、頬が強張ってしまう。

 どうも空は機嫌が悪いらしく、重苦しい雲が佇んでいた。


 それでも村は穏やかで、これまで訪れた町とは雰囲気は違っていた。

 ここに祭壇はないのだけれど、ゆっくりと流れている時間には不要に思えてしまい、どこか安堵した。

 風すらも休んでいるようだ。

 この村の事情は、リナから軽く聞いていたので、強く聞くことはできないけれど。


「ようやく起きたのね」


 遠くに見える幻高森を眺め、眠気に抗って目をショボショボとさせていると、どこか冷めた声が背中に浴びせられた。

 どこか責められてそうで、眉をひそめて振り向くと、リナが一人の女の子と話していた。


「体の調子はどう?」


 僕の顔をじっと見据え、髪を撫でるリナ。

 なんだろう。やはりどこか僕に呆れているように見えてしまう。

 心配してくれてる素振りは…… ないよな。


「うん。もうかなり楽になったよ。なんだったら、今すぐにでもいいぐらい」


 どうもこのままでは冗談が叱咤に変わっていきそうで、腰に手を当てて胸を張った。


「だったら、ミントに感謝することね。その子がいなかったら、あなたは毒に殺されていたんだから」

「ーーミント?」

「うん。って、あれ? どこに行ったんだろ? さっきエリカと一緒にいたんだけど……」


 辺りを見渡しても、エリカもミントという女の子の姿もなかった。


「またあの洞窟にでも行ってるのかな」

「ーー洞窟?」


 見当のつかないことに首を傾げていると、リナは目を丸くして項垂れた。


「もう忘れた? あそこで大剣を使ったから、助かったってことに」

「いや、忘れたってことじゃないんだけど、やっぱりまだ信じられないかなって」


 つい首筋を擦り、村を眺めた。

 この村の人々は生け贄から逃れた人。

 大剣によって自分が助かった……。

 まだ実感が掴めなかったんだ。


「不思議だよな、やっぱり……」

「何、感慨深くなってんのよ。あなたここで旅を終わらせる気なの? ま、それだったら、私も何も言わないけれど」


 憎らしげに眉をひそめるリナに、口角を上げて向き合った。


「まさか。そのつもりはないよ」

 ってか、お前、どこにいるんだよ。

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