第三部 序 ーー 見つめる先 ーー
百三十七話目。
今回から第三部の始まり?
始まりなんだよね?
もしかして…… えっ?
第三部
序
光がゆっくりと体に染み込んでいく。
胸の内からじんわりと温もりが広がっていく。
光が次第に消えていくなか、そこに広がる町の光景も薄れていく。
蜃気楼みたいに淡く、砂が舞うように儚く消えていく。
きっとこの町は活気に溢れていたのだろう、と消えゆく町並みを眺めていると、奥歯を噛まずにはいられない。
連なった露店の軒先には、花や果実、野菜が並べられている。
誰があの野菜を買うのだろうと興味が湧いていくなか、光が散っていくと、また息を吐き捨てた。
瞬きを繰り返すと、広がっていた光景が一瞬にして閑散とした雑草がなびく草原へと変貌していた。
こうなるのはわかっていたのに、どこか寂しくなってしまう。
これが現実であるんだ、と心臓を握られたみたい。
胸苦しさに、唇を噛んでしまう。
「やるせないねぇ。もうここに町はないなんてさ」
「……仕方がない。で片づけるのはなんか嫌よね」
「どう? 何か気持ち的に変わったことでもある?」
後ろでおどけるように聞くミサゴにかぶりを振り、三つ編みの先を触ってしまう。
これで鍵を開いたのは何度目になるんだろう。
地面に埋まっていた石に、突き刺された大剣の柄を握ったまま、言葉が喉を通ろうとしなかった。
私はこうなるのを望んでいたのよ。それなのに、なぜか苦しい……。
辺りを眺めていると、雑草が風に揺れるだけで、周りには何もない。
垣間見た町の光景も今はない。
私とミサゴがどこか空しく立ち尽くしているだけで。
「なんか不思議よね。忘街傷として残っているところもあるのに、こうして何も残らない場所もあるんだから……」
「でも確かにここにも町はあった。今見た幻がその証拠だからね」
風に揺れる草を蹴りながら嘆くミサゴに、「そうね」と答えるしかない。
「ーーそれで君としては、何か見えたものはあったのかい?」
あっけらかんと話すミサゴに呆れると、おどけるように両手を見せ、首を傾げた。
フードで目元は見えないが、口元から幼い表情がこぼれていた。
なんか、挑発してる?
「ほんと、あなたって楽観的というか、無頓着というか……」
「そうかな? 僕としては真剣なつもりでやっているんだけどねぇ」
こちらとしては皮肉を込めたんだけど、ミサゴは怯むことなく手をクルクルと回した。
どうも、この子には嫌味を受け流されるみたい……。
もう皮肉は言えないわね……。
リナがいたら、すぐに蹴りが跳んでそう。ま、私はこのままでもいいけど……。
「ーーで、どうなんですか?」
「えぇ、そうね。やっぱり霧がかかっていた記憶が次第に晴れていくわね。悪い気は余りしないわ」
「それにしては浮かない顔に見えるけど?」
また唇を噛んでしまう。
確かに素直に笑えず、どこか無理をしていたから。
「そうね。私のこの“力”がはっきりとしてくると、見たくないものも見えてくるし……」
「先見の力、か…… でも、そのおかげでこの場所もわかったんだし。よしと考えた方がいいんじゃない?」
「ほんと、あなたって……」
その先は言えなかった。
無責任にも聞こえる言葉が、逆に気持ちを和らげてくれ、つい頬が緩んだ。
「でも、君の姉さんには感謝だね。あそこの地は開けられるとは思っていなかったから」
「あそこはハクガンが守っていた場所だったからね」
「ふ~ん。それも思い出したんだ」
「茶化さないで。それに彼のことも責められないから」
「そうかい? 僕にはそうは思えないけど」
まったく悪びれない様子に、頭を抱えてしまう。
どうもこの子には手綱をつけてないと、途方もないことをしてしまいそう……。
ったく、リナとの旅とは全然違うな。なんか懐かしい……。
「どうしたんだい?」
あどけなさが憎く、かぶりを振ってしまう。
……誰か助けてほしい。
「……そういえば、セリンは?」
小さな光を見つけ、顔を上げると、
「ま、彼もいろいろあるみたいだし」
ミサゴは頬を強張らせ、それまでの様子と違い、腕を組んで唇を噛む。
「それって、“蒼”のこと?」
「まぁね。この前、勝手なことをするなって牽制してきたんだけど、意味ないみたいだしね」
「……なんか怖いね、これから先……」
「何か見えたってことなの?」
答えない。
答えたくはない。これは。
ミサゴの問いから逃げるように、空を眺めた。
空は澄みきっており、青が広がっている。
「……テンペストは何を望んでるのかな……」
僕らの出番はなし、だね。
もう慣れなって。
ということで、今回より第三部の開始となります。もう三部なんですね……。
僕らの旅に飽きずに楽しんでいただければ嬉しいです。
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