第二部 六 ーー 心配はいらない ーー
百二十六話目。
ねぇ、今、キョウが危ないんだよね。
それなのに、なんで?
その頭痛はいつもと違っていた。
脳天に鋭利な刺が貫くみたいな痛み。
目を瞑り、暗闇が広がるなかに、流れる光景に胸が詰められてしまう。
夢とはまた違う風景が容赦なく私を刺激していた。
これまで漠然とした感覚で、時折訪れる感覚ではあったけれど、最近はそれがより鮮明になっていた。
きっかけはアイナの亡霊に出会ってから。
彼女の気持ちが心に流れてきたときからである。
それが“先見の力”なのか、と知ったのは後になってから。
まるで空に浮かんでいるみたいな感覚で、どこかの光景を眺めていた。
見覚えのある三人が剣を握る者に囲まれ、窮地に陥った場面。
それまでずっと旅を続けていた心を許せる者が追い込まれた姿に、胸が痛んだ。
助けたい。
そう願うのだけれど、声が出てくれない。
口を開こうにも、喉の奥に大きな石を詰まらせたみたいで声が出てくれなかった。
……リナ。
助けたい、と願ったとき、光景が砂粒みたいに風に痛みとともに流れて消え、現実へと戻されていた。
その光景が現実として現れたのは数日後。
実際にリナたちが追い詰められた。
あの夢は、先見で見た光景と同じ。
この後、どうなる?
リナたちは大丈夫なの?
グルグルと不安が目まぐるしく体にまとわりつく。
リナたちがこの先どうなったのかを、私は見ていなかったから。
刹那ーー
背負っていた大剣を騒ぎの渦中へと放り投げた。
緊迫した空気を切り裂いた音がした気がした。
リナを含めた人の輪は騒然となり、大剣へと意識が注がれる。
誰もが戸惑うなか、リナが地面に突きつけられた大剣に手を添えた。
大剣を地面から抜くと、軽々と慣れた手付きで大剣を振り回した。
自然と笑みがこぼれた。
これで大丈夫。
不思議と大剣を手にするリナを眺めていると、そんな安心感が芽生えていた。
リナが負けることはない。
これまでの時間がいつしか不安を払拭してくれた。
ふっと、息を吐くと、リナらに背中を向けた。
これ以上手助けする必要なんてない。
「よろしいのですか?」
隣で黙って見守っていたセリンが静かに聞いてくる。
「ええ。行きましょう」
心配することなんてない。
リナなんだから。
うん、大丈夫。
町の一番高い建物の屋上から、リナの姿を眺めていた。
話しかけることは絶対にできないけれど。
……だよね。
けど、やっぱり気になっちゃうよね……。




