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忘却のテンペスト  作者: ひろゆき


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 第二部  四 ーー 高嶺の花 ーー

 百十一話目。

   また私ら休みなの? 

     最近、休みが多いっ。


 高嶺の花であるのはわかっていた。

 自分とは釣り合わない子であると。

 だから、自分から声をかける気にもならなかった。

 情けないと自分を叱責しても。



 そもそも、その子の恋人と呼べる者がそばにいた。

 もとから自分の入る隙なんてないのは理解していた。


 別にそれで構わないと、気にもしていなかった。


 あの子が生け贄に選ばれるまでは。



 信じられなかった。

 信じたくなかった。


 心のどこかで抗いたいと、気持ちは湧き上がっていく。

 何か引き留める手段はないかと悩むなか、静かに祭りの準備は進められていく。


 誰もが反論し、阻止しようとはしなかった。


 恋人である男さえも、何も抗わない。


 それは紙くずを丸めて捨てるような、そんな雑な扱いに見えてしまった。


 なんで、誰も止めない?

 邪魔をしようとしない?

 

 信じられなかった。


 生け贄にされた子を誰も助けないんだ?

 そんなに自分が助かれば、それでいいのか?


 憤りは闇に埋もれていく。


 あの子は怒ることも、嫌がることもせず、静かに笑って受け入れてしまった。


 テンペストが起きてくれ。


 平然と人の命を軽んじる人の心。

 あの冷酷に笑う引きつった人の顔が憎くなる。


 こんな町、消えてしまえばいいのに……。


 心の奥に、黒く重いものがうごめいていた。


 願いは届かず、テンペストが訪れることはなかった。

 祭りは誰にも止められることなく、行われてしまった。

 胸を搔き毟られるような声が轟くなか、祭壇に立ったあの子は、笑顔を弾けさせた。

 己惚れだって自覚している。


 それでも……。


 あの子と目が合った気がした。



 瞬間、あの子の音色が途切れた。



 テンペストを望んじゃいけない?


 なんでだよ。


 あの子を助けたいと思って何が悪いんだよ……。

 ま、章も終わりだからね。


 ということで、第四章も終わりとなります。

 次回より五章目に入ります。

 よろしくお願いします。

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