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忘却のテンペスト  作者: ひろゆき


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 第二部  第四章  5 ーー 怒りの矛先 (2) ーー

 百二話目。

   追い詰められたってこと、これ?


 なんでリナの名前を?

 疑念が先走ってしまい、警戒心がおろそかになってしまった。

 振り返ったとき、もっと注意していれば、と後悔してしまう。

 青い服を着た三人の男を目の当たりにしてしまい。


「……あんたたち」


 驚愕の声をもらすリナ。完全に後手に回ってしまっている。

 何やっているんだ。クソッ。もっと警戒しておけば。

 後悔で体が鈍るなか、男三人は身構え、容赦なく剣を抜いて構えている。


「正気なのか、こんな町のなかで剣なんか抜いて。騒ぎをでかくするのかよ」


 咄嗟に二人の前に立ち、声を荒げる。

 驚いたエリカは僕の後ろに隠れ、リナは負けじと身構えようとし、


「……バレてるんじゃ隠しても無駄よね」


 と赤いフードをめくり、解放されたことを安堵するように髪を揺らした。

 そして男たちを凝視する。

 今にも飛びかかりそうな勢いに、右手を伸ばして止めた。

 リナの顔を確認した男たちの頬が引きつる。


「やはりリナリア。大人しくしろっ」

「だから言ってるだろっ。町のなかで騒ぎを起こす気かっ」


 リナの姿にいきがり、余計に手に力を入れる姿に、より牽制するのだが、男らは聞こうとしない。


「……無駄みたいね。こっちも覚悟しないといけないみたい」


 男たちの反応にリナが嘆くと、静かに息を吐き、背中に手を回す。


「動くなっ。我々はお前を拘束するように命令を受けている。どのような状況であっても、手段を選ばなくていいと」

「だからって、大人しく捕まるほど可愛くないのよ、私は」


 右端にいた男が声を張り、リナを威嚇するけど、動じることなく両手にナイフを握った。

 挑発するように口角を上げて。

 それは以前、アネモネが使っていた物。

 クソッ。何を挑発してんだよ。今はそれどころじゃないだろ。

 焦りが胸の鼓動を激しくさせる。

 気づけば、周りにいた住民らが集まりだしている。

 騒ぎが酷くなり、鼓膜を刺激してくる。

 まったく。

 これは見世物でも、茶番でもないんだぞ。

 叫びたいのに、好奇心に満ちてしまっている。

 怖さを知らない空気が喉を詰まらせていく。

 クソッ。どう乗り切ればいいんだよ。


「あんたもエリカを守らないといけないんだからね。貸してあげる」


 と、左手に握っていたナイフの一本を無理矢理握らせてきた。


「もう、やるしかないみたいよ」


 鬼気迫る状況で、どこか、半笑いに見えるリナに唖然となりながらも、手にしたナイフを握ってしまう。

 不本意でありながらも、強く。

 やっぱりやらないといけないのか……。

 刃を握ることの怖さが……。

 ふとナイフを眺めてしまう。


「あんた、それぐらい扱えるでしょ」


 呆然としてしまうなか、リナは念を押してくる。

 それほど期待をされても……。

 やっぱり。


「ーーっ」


 恐怖が強まり、全身から熱が奪われるなか、左手に温もりが伝わる。

 エリカが手を握っていた。


「ダメ。キョウ」


 後ろで力強く言い切るエリカ。

 僕の揺れていた気持ちに鋭く突き抜けていく。

 でもーー

 気持ちは落ち着いていく。


「ーーなんだ。お前も問題を抱えているんだな」


 焦りが消えないなか、縛られたルモイご茶化してくる。


「黙ってて。今はあんたにかまっている暇はないの。邪魔しないで」


 男らを睨みながらリナが叱咤すると、ルモイはクスクスと不敵に笑い、


「だから言ったろ。このままテンペストに襲われるのが一番なんだよ」


 躍起になったルモイの叫びが広場に散ると、余計に住民らの注目が集まる。

 このままでは、この人らにも被害が……。


「ねぇ、キョウ。わかってるでしょ。もうーー」


 逡巡する僕に、リナは決断を迫る。


「リナリア。わかっているのか。我々が言う、手段を選ばないというのは、どういうことなのかをっ」


 右端にいた男が怒鳴ると、右手に握った剣の刃先を不意に横に向けた。

 途方もない方向にある刃先に、眉をひそめてしまう。

 何を企んでいるのか掴めず、気持ち悪くなる。


「汚い」


 後ろでエリカがぞんざいに吐き捨てる。

 訳がわからなくなっていると、エリカは男三人を捉えておらず、斜め前を睨んでいる。

 視線の先には、住民が騒然としている。

 意識していると、ざわめきがこちらまで聞こえてくる。

 そしてーー


「……そういうことか…… ちっ」

「ほんと、汚いわね。マジで殴りたい」


 状況を理解し、舌打ちしていると、リナも憤慨する。

 こちらの焦りに気づいた男が憎らしく首を傾げて剣を揺らす。

 男が指摘していたのは、周りの住民。

 手段を選ばないという言葉と刃先が示すのは、住民を人質にしている、と捉えた。

 ここで反抗すれば、命を奪うと。


「状況を理解したか? 俺らは容赦する必要はないってことを」


 気持ちをえぐる挑発に、奥歯を噛んでしまう。

 急に動けなくなってしまう。

 風が痛い。急に針に刺されたみたいに肌が痛くなる。

 気のせいか、急に天候も悪くなり、今にも雨粒が降りそうになっている。


「リナリア、わかるだろ。我々も大ごとになんてしたくない。被害を出す前に、賢明な判断をしろ」

 

 中央に立つ男が決断を迫ってくる。

 これは忠告ではなく、警告でもない。

 理不尽な命令でしかない。


「……リナ……」


 力なく声がもれた。

 できることなら逃げたい。いや、それが叶うならば、それが一番である。

 でも、その逃げ口は塞がれているのと同様。

 それこそ、ルモイが望むように運よく、いや、運悪くテンペストが町を襲うぐらいのことがなければ適わない。


「仕方ないわね……」


 一言リナが呟き、手にしていたナイフを足下に落とした。


「私だって、関係のない人を犠牲にして逃げるような、薄情になりたくないからね」


 最悪の状況に変わりはない。

 それなのに、自然と頬が緩んだ。

 覚悟しろってこと……。

     汚いよな……。

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