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忘却のテンペスト  作者: ひろゆき
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 序  ーー 赤いドレスの少女は踊る ーー

 第一話となります。

 よろしくお願いします。

           序



 空気が突き刺さってくる。

 空気を吸っても肺が満足してくれないほど、空気を薄く感じてしまう。

 辛うじて吸えても、肺まで届かないほどに乏しい。

 太陽がジリジリと照り尽くす荒野。

 枯渇した大地はひび割れ、潤いを求めた陽炎が瘴気を吐き出しているみたいに雑草を揺らしていた。

 全身にまとった白銀の鎧が重くても、緊張が体を支配し、硬直させていた。

 眼前に広がるのは敵の大軍。


 開戦の時が近づいていた。


 我が軍は三万の軍勢。

 対する敵はおよそ八万……。

 多勢に無勢なのは明白。

 しかも、ほんの一部の数でしかない。

 大きな線を引いたみたいに、数十メートル先に対峙した敵軍の姿は、熱気も重なりうねっている。

 そばにいる騎馬隊の隊長が合図を送れば、大地を揺るがし、突撃するだけ。

 大地を撫でる風が吹いた瞬間、我が軍の御旗が掲げられた。

 いくつもの御旗が空を裂くように、風に強くなびいていく。

 その姿は己を鼓舞してくれる誇り。

 空にそびえるだけで胸を高揚させてくれる。


 いち歩兵。

 開戦すれば、先陣を切って突き進むだけ。

 迷いはない。

 恐れはない。

 手にした槍に力を込める。


 ウォォッ ウォッ ウォッ ウォォッ ウォッ ウォッ


 足を踏みならせっ。


 旗がなびくと、三万の軍勢が一気に吠えた。


 ウォォッ ウォッ ウォッ


 大地を踏み鳴らし、手にした武器を天に突き上げ、兵は吠える。

 空気を揺らした咆吼は心を鼓舞する。

 大地を踏み、士気を上げていく。

 たぎらせていく。

 御旗を揺らす咆吼は、軍勢を一つにまとめ上げていく。

 それは、孤高なる狼のごとく。


 オォォッ オォッ オォッ オォッ


 大地に現れた咆吼に牙を剥いたのは敵軍。

 粋がる狼に歯向かうべく、敵軍も決意を轟かせる。


 誇り高き獅子のごとく。


 ウォォッ ウォッ ウォッ


 オォォッ オォッ オォッ オォッ


 対峙した軍勢が陽炎に揺れ、牙を剥いた二頭の獣へと変貌させていく。


 隊長が剣を振り下ろせば……。


 目蓋を閉じ、手にした槍を構え、両足に力を込めた。

 目蓋を開いたとき、目を疑った。


 そこに弱々しい火が灯っていた。


 対峙した軍勢の間に、一人の女の子が突如現れた。

 一時の出来事に両軍にどよめきが生まれる。

 それまでの高揚は薄れ、ざわめきが軍に縫うように浸透して、体制を崩していく。


 踊っていた。


 赤いドレスに身を包んだ一人の女の子は、整然と踊り続けていた。

 照りつける陽光を浴びながら踊る姿は、赤いドレスをより鮮明にさせ、白い肌がより際立っていた。


 どこから現れた?

 なぜ、踊っている?

 誰だ?


 ざわめきにこぼれる疑問が風に流れても、踊りは終わらない。

 両手を大きく左右に伸ばし、体をゆらゆらと揺らすときに天を仰ぎ、時に腰をくねらせ。

 それはどこか絶え間ない炎が揺れているみたいに力強かった。

 それでいて、指先にまで伸びたしなやかさは妖艶であり、ざわめきはいつしか静まり、誰もが彼女の踊りに魅了させていた。


 力強い炎は燃え続ける。


 炎は途絶えることはなかった。

 どれだけ踊っていても、彼女のしなやかさは途絶えなかった。

 決して消えない灯火は、時間が流れるほどに、周りにいた人々に不安を煽っていた。


 いつまで踊る?

 大丈夫なのか?


 不安が軍勢を崩していき、動揺が隙間を縫うように浸透していく。

 陽炎に揺れていた獣は消え去っていた。

 どよめきが風に乗っていたとき、彼女は両手を天に突き上げ、それまで動いていた体が止まる。

 まるで天に身を捧げるようで、より陽光が彼女の身を照らしていく。

 ようやく止まった姿に、安堵から息を呑んでしまう。

 干からびた喉がより潤いを求めていたとき、胸が締めつけられる。

 彼女は動かなかった。

 それまで消えることのなかった炎が途絶えた。


 ーー刹那。

 

 今後も、応援よろしくお願いします。

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