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6話 遭逢と選択

 『よろしく』と俺達に挨拶を向けてくるディークライムと名乗るその男に対して俺は嫌悪という言葉以外わかなかった。


「お前はさ…」


「うん?」


気がつけば言葉が喉奥から迫り上がってくる。あぁ…もう止まらない。言えば相手を怒らせ、俺が死ぬとしても我慢したまま死にたくなかった。初対面なのに初対面ではないコイツに一言…そうだ…一言言ってやりたくて。


「お前は…第一印象という言葉を知っているか?」


「あぁ…よく知っているとも…。よく()()()がお前達に説いていたな…。

『初めて会う人間同士、ただ純粋な関係を築き合うのは難しい。大体は相手の(あら)を探して自分にとって損か得で考えてしまう。だからもしお前達が初めての人に会った時にはただの自分を知ってもらう努力をが大事なのじゃ…』


…だったか?それがなんなのだユジルよ。今は私との出会いを楽しもうでは———」


「だから!!!!お前との出会いは最悪だ!!!!初めて見た時から嫌悪感と吐き気で一杯だ!!!狂っているのか!!この状況で!!村をこんなにして!!!若い頃の村長のような姿で現れて!!!村長のような声で喋って不快で仕方がない!!!俺とネンスとソラを理解していてくれたのは村長だけだった!!!!その俺達だけの思い出に勝手に入ってくるお前と…お前なんかと…家族になんてなれるわけがないだろう!!!!!!返せ!!!村長を!!!平和を!!!返せ!!!!」


クライムの話を遮りながら大声で俺の思いを吐き出す。

頭に血が足りない。こんなに大声を出したのはいつ以来だろう。もう力を出せないほど疲弊しているのに、頭が痛いのに、ついやってしまった…。話を聞いていたクライムの両の手がポケットからゆっくりと出る。

手をあげる姿を見て、俺は自分の私を悟る。


あぁ…死ぬ…。ごめん…ネンス、ソラ…逃げてくれ…。


「素晴らしい!!!!」


そう叫びながらクライムは大きな拍手をする。





……は?


「いい!いいよ!!ユジル!!!君はやっぱり昔から二人の前に立って言える人間だ…だから私は君が好きなんだ…君達はねぇ…凄く優秀な子達なんだよ?ここにいる他の村人達とは違う選ばれしものだって気がついてるかい?君達だけが()()()にずっと飼われていたのはこの時のためさ!私好みの子供達として成長したそのタイミングで私が貰うための準備だったわけだ」


「お前は——」「……てめえは何言ってんだ…?」


余りの訳わからない発言に言葉を失う。それを引き継ぐかの様にネンスとソラが俺の横に立ち怒りの表情を見せている。


「お父さんはそんなんじゃない!あなたなんかに何がわかるの?お父さんが…お父さんだけが私を娘として扱ってくれた。私の(コード)だって受け入れてくれた。こんな気持ちの悪い私をずっと守ってくれた…。そんな私のお父さんを馬鹿にするな!」


「俺だってそうさ…父ちゃんだけだった。父ちゃんだけが楽しく生きる事を教えてくれた。生きる意味を諦めた俺に新しい生き方を教えてくれた。そこに…嘘はなかった。父ちゃんは俺への愛情も、ソラへの愛情も、ユジルへの愛情だってちゃんとあった。お前みたいな胡散臭いものなんかじゃ断じて——」


「でも()()って君達から見た視点のお話だよね?」


ネンスの話を遮るかのように醜い顔でそいつは笑う。


「君達は…ホラ…あぁそうだ火縄牛を飼育していたじゃないか。その中でも特にお気に入りだった子に愛情を持って育てていただろう。それと一緒さ。優秀な個体だったから俺が目をかけていたという優越感に浸りたくてそうしていたんだ。

だから君達の言うソレはただの()()()ってやつさ。家畜視点って奴さ。非道(ひど)い話さ…本当に。コイツは酷い奴だったよ。でもね…これからは私が親として真っ当に君達を教育してあげる…。だからほら…おいで…」


…あぁ…気持ちが悪い。ここまで相手に対し、不快な感情を抱いたのはこれが初めてだ。

何を言ってもコイツには効かないのだろう。がらんどうな洞窟の様に俺達の言葉は届かない。

言葉での話し合いは不可能。ならばどうする?逃げる?現状を考えろ!


今村をこうした元凶がおそらくコイツ、俺の証は()()()()()()()()()()()黒い雨のせいで使えない。ネンスも背中に怪我、余り長い時間証を使えない。ソラは無事——だが証の力がわからない以上作戦には組み込めない。


———なにより目の前にいるコイツが俺達の逃走を黙ってみているはずがない…どうする……。


「ユジル…お前はソラを連れて逃げろ…こいつは俺が足止めする。手負いの俺がいても逃げるお前らの枷になる」


考えている俺にネンスが話しかけてくる。


「何言ってんだ!三人で逃げなきゃ意味ないんだよ!」


「そうだよ…それに誰かが残るなら私は二人に生きてほしい…だから私が残る」


「ん〜?作戦会議かな?誰が最初に私の子供になるかの話し合いかな?わかるとも長女、長男というものはその場所の全てを手に入れる事ができる至高の存在だ。よく考えるといい」


「…あいつは今油断しきっている。逃げるなら今が好機だ。だからこそ今誰かが残ってあいつを足止めしないと俺達は全滅だ…」


ネンスは覚悟を決めた顔をして俺達に話す。その姿に、気迫に俺達はおもわず言葉を失う。


「だけど…」


お互いが誰も退く気の無い問答が続くと思ったその時だった。


『うわあああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!助けてえええええええええええええええええええええええええええええええええええ』



声が聞こえた。——どこから——上からだ…。見上げると男が空から落ちてきた。


何がと思うまもなく、俺達はその男の落下位置へと駆け出す。しかし、俺達が受け止めるまでもなく、白い光が男を包むと、ゆっくりと男は地面に降り立った。


『あ…あ…とにかくありがとう!!!し、死ぬかと思ったあああああ!!!ここどこ?てかなにこの状況!?空から見たら村は半壊、目の前には黒い男、こっちは美男美女の三人。どう言う事?俺は電車に轢かれたはずじゃ………』


降りて早々訳のわからない事を言う男がこちらを涙目で見ている。俺達の知っている言葉ではなさそうだ。


「ネンス…」


「ああコイツは間違いない()()()だ」


異邦人、ここではない別の世界から来たと言われる人達。彼らは新しい技術や考えと共に、この世界を動かしてきた知識人。証を持つ物も多く、武人としても識者としても超一流と言われる異邦人……え?……嘘だぁ……。

醸し出す雰囲気があまりの素人だ…。こんな人が本当に…?


「あんた!こんなとこにいないで早く逃げろ!異邦人なんだろ?いきなりで巻き込んですまない!俺達のいざこざに巻き込んですまない!早く!」


ネンスの叫びも虚しく、男は状況に困惑している様だ。


『え?え?』


「…私と息子達の一家団欒を邪魔する貴様は死ね…」


『え?え?え?』



何も状況を理解できていない男に向かっていままで温和そうな顔をしていたクライムのドス黒い本性が黒い大きな手となって襲いかかる。


「危ない!」


思わず俺は彼を庇う様に彼と大きな手の間に割り込む。


あぁ…今日何度目かの死を感じる。だが今度ばかりはどうにもならない。最後に愛する二人を目に焼き付けながら…二人の驚いた顔が視界に入る。すまん俺が一番考えなしで脳筋だった…。心の中で謝った瞬間確かに俺の耳に聞こえた。


『…なるほどな…』


黒い手が俺を襲うその瞬間俺の腰に誰かの手が添えられる。ソレが誰のものか確認するまもなく、視界がブレる。確かに今までネンスとソラが見えていたはずなのに気がつけばクライムの方を向いていた。そして隣にはさっきまで襲われていた男。


「貴様…それは…」


クライムが憎々しそうな顔で彼を見ている。よく見ると添えられている彼の腕からは緑色の光が放たれている。


『よくわかんねぇけど、命の恩人助けなきゃよな…』


その声と共にまた視界が歪む。次の瞬間、目の前ネンスとソラがいた。


「え?」


『俺にもよくわからんから質問は勘弁!逃げますよ…』


次の瞬間には俺達四人は村の正門にいた。


「一体何が…」


『いいから!あの黒いのから逃げてるんでしょ?俺はもうガス欠!あいつもすぐに来る!だから逃げないと!』


「何を言ってるかはわからんが、逃げろってことよな?ありがとう!!」


必死さは伝わったのか、ネンスがお礼を言っている。


今日何度目かの未知の出来事に頭が回りきらないまま、正門にある小門から出ることを選択する。大門のほうは十人がかりで開ける扉で今は使えない。窮屈な小門から一人ずつ逃げるしかない…。

異邦人の彼、ソラは門の外に出れた…。あと二人。


「ユジル!!!!!ネンス!!!!!!ソラ!!!!反抗期かぁああああ!!!!??????かくれんぼは終わりだろう!!!!!!!!出ておいで!!!!!!!」


不快な声が耳に届く。声の方を見ると村長の家の方からクライムが走ってくる、後ろにはどこにいたのか黒い兵隊共も一緒だ。


「まずい!」


「ユジル!!!先に行け!!!お前は証が使えなきゃただの一般人!!なによりお前はもう限界だろう?俺なら余力があるし、自慢の筋肉で追いつける!!!」


「でもっ…」


「いいから!!!!起動(アルケイド)…」


「なるほど〜ネンスが私の足止めをし、その隙にユジルは逃がそうと……?ふふ…なるほどなるほど……させるわけがないだろう??」


そう邪悪に笑うとクライムの黒い腕が分離する。それはネンスに向かって一直線に飛んでくる。


「遅い!」


速度は確かに凄まじい。それでも直線なら…。ネンスは肥大化させた足で地面を蹴り、横へと跳躍し避ける。


黒い腕は真っ直ぐに通過し俺に向けて飛んでくる。

いくら手負いでもこのくらいは避けれる。


「残念だったな!そんなの当たらないぞ!」


ヒラリと躱し、そう向こうにしてやったりと凄んで見せる。

しかし、その凄みに向こうは反応しない。


「ん…ん〜違う違う。『ネンス、ユジル物事は俯瞰で見なければいけない』と言われていなかったか?」


「…お前…」


また村長のような声で、俺を揺さぶる作戦か…?

…いや待て…そうか!


次の瞬間、バキバキと木が壊れる音と、瓦礫が崩れる音が後方から聞こえてくる。振り返ると、門の周りが破壊されていた。


そこにはさっきまで人が通れていた小門の出口がさっき飛んできた黒い腕にぐちゃぐちゃに破壊され、その黒い腕だったものが黒い液体へと変わり、穴を完全に塞いでいた。


立ち尽くしたネンスと目が合う。


「しまった…逃げ道を…!」


「ふふふ…これでお前らは私の家族となる。ソラもすぐに捕まえる。2人とも安心しろ…また4人一緒だ…」


鳥肌が立つ。こいつの謎の執着心。気味が悪い。こいつと家族なんてまっぴらごめんだ…。それでも親友とを天秤にかけるなら…


「わかった…抵抗はしない。俺は降参する…」


「ユジル…!?お前…」


「悪いな…お前を失うくらいなら俺は…」


「へっ…考えていることは一緒か…まいったね…。まあ今回は俺のがお前よりお兄ちゃんだから早い者勝ち勝負なら俺が先だろうよ…」


「…?ネンスお前何を言って…」


「ソラを頼む…あいつまた泣くだろうけど、うまく言っといてくれ…頼むぜ」


そう言うやいなや証の力で肥大化した腕に掴まれ、門の柵の上へと勢いよく投げ飛ばされる。



―もしもこの状況で重力にも負けずに移動ができるものがいるとしたらそれは(ことわり)を無視できる超越者だけだろう。そしてそんなことをユジルはできるわけがない。彼はまだただの少年だ。少年にできることはたまただ叫ぶことだけだ―




「ネンスっ!!!!!」


投げられながら、どんどん遠ざかっていくネンスに向けて俺は必死に叫ぶ。お前だってもう限界で、その怪我でどうにもできない事をわかっているはずなのに…。死ぬな…死なないでくれ…。やめてくれ…。


「後でケムリグサの森の奥のあそこで集合な!!!!!」


唐突に叫ぶネンス。そんな後のことはいい…。今俺はお前と一緒に…


「じゃあ!後でな!ユジル『楽しめ!何事も!』」


そう笑顔で俺に笑うネンス。

それにどんな顔で俺は返しただろう。わからない。ただきっと酷い顔だったんだろう。

ネンスはその言葉と共にクライムへと向き合い、そして俺は空へと上がりきった体が止まり、落下が始まった。


凄い勢いで門の外へと落下が始まる。瓦礫の影に隠れてネンスが見えなくなっていく。


「ネンス!!!!!!!!」


その声に応えるかのように激しい音が門の向こうから聞こえてくる。


「何もできなかった…また…」


悲しみが身体を支配する。それでも生きようとする生存本能が体を突き動かす。空中で姿勢を作り、地面に着地する衝撃を緩和する準備に入る。地面が凄い勢いで迫る。


「あいつ…ほんとむちゃばかりするよ……」


そう小さく愚痴りながら、硬い地面に衝撃を逃がしながら受け身を取り、ゴロゴロと転がる。その時、無傷で着地するのが嫌で地面から飛び出ていた石に掌を切らせる。


ムクリと起き上がると、さっきの彼とソラがこちらに近づいてくる。ソラは状況を把握したのかただ一言


「ユジル…お…お兄ちゃんを信じて逃げよう…」



決意を込めた瞳だった。言葉も挟めぬほどの気高さがそこにあった。ソラはそれだけ言うと俺の手を掴むと森へと駆け出す。

激しい音はまだ聞こえる。それでもそれを背に俺達は走り出す。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「行ったか…」


ユジル達が走り去っていく微かな音を聴きながら拳を握る。


「…ふぅ…ネンスゥ〜余り()()困らせるな…聞き分けがない子はおしおきだぞぉ」


「ははっ…あんた…言ってる事が無茶苦茶だな」


「愛する息子達が反抗しているのだ。私だって正気ではいられんよ」


「あんたは俺らの父ちゃんじゃないし、俺達の育った場所を壊した悪だ。そんな奴が語る正気も、理想も信じられるわけないだろ…」


「ふはっ…それはこれからお互いをわかり合っていけばいいさ…私達は親子だ。沢山お互いの時間を共有して行こうじゃないか…だから——」


「だから……親子じゃねぇって言ってんだろ!!!!!」


話が全く通じない。自分の父親によく似た男の声の一つ一つが神経をぬるりと刺激する。頭では否定しても体がそれを覚えている。()()()()()()()()()()姿()()()


だからそれを振りほどくように肥大化させた腕で顔へと思いっきり殴りかかる。同時に足も証の力で肥大化させ、思いっきり地面を蹴り込む。

さっき地面に穴を開けたときはユジルとソラを抱えてた分手加減していた。けれど今回その制約はない。


全力全開。当たれば首と胴が別れて吹っ飛ぶだろう。それを承知でネンスは殴る。愛する人達を守るため、己を犠牲にする事を選んだ。勢いの乗った体全体のエネルギーを余す事なく、右腕に伝える、会心の一撃。加えてあいつは油断し切っていて、まだ構えを作っていない…()った…。長年、動物達を狩ってきたからこそ、直感で当たると確信した。


その拳が当たる瞬間、クライムの姿が虚空へと消える。


「なっ?」


…いや待て。これはさっきもあった村長の証の力だ。だったら俺に見えていないだけで()()()()()()()はず。

だったら…そのまま…殴る!

考えるより先に体が動く。体を捻りながらそのまま振り抜いた腕の勢いを殺す事なく地面へと拳を叩き込む。砕けた地面の破片が当たりに飛んでいく。


どこだ…


辺りを注意深く探る。すると一箇所だけ、石や岩が空中の一箇所で止まり、砕けていていた。


「そこだぁ!!!!」


さっき以上の力を込めてその場所へと拳をその場所へと叩き込む。

手応えはわからないが、このスピードについてこれるわけが…


「ゲフッ…」


急に口の中から熱いものが溢れ出てくる。これは血だ…俺から出ている血だ。

何が…と自分の身体を見ると、胸に痛みがある事に気が付く。剣…いやこれは爪だ。巨大な爪が胸を刺し貫いている。動物の爪ではないこれは…


「悪くはない一手だった」


そう言いながらクライムが姿を現す。俺の拳が胸を貫きながら。その事を意に返していないのか俺の拳から肘とどんどん近づいてくる。まるで砂の山にトンネルを作るかの様に向こう側がはっきりと見える。


「だがお前はまだその(コード)の力を使いこなせていない。何よりあんな獣どもとばかり戦っているばかりで、動きが鈍い。だが…これでわかっただろう…私がこれからお前に色々と教えてやろう…なぁ?ネンス…あの二人にも教えてやらんとならんなぁ…あぁ忙しくなるぞぉ…」


そう言いながら、醜い顔で嬉しそうに笑うクライム。

…こいつはここで俺を殺す気がないらしい。だがそれはつまり、今からでもあいつらに追いつけるということだ。そして恐らく、あの異邦人は殺されるのだろう。


…それはできない。


自分の安全のために誰かを見殺すというのは()()()()と同じだ。それだけは俺の矜恃が許さない。だが俺にはコイツを倒す手がない。右手はいつのまにか胸を修復したクライムと一体化していて動かす事ができない。かといって今から左手で殴りかかってみたとしても意味はないだろう。

ただこのままなにもしなければコイツはユジル達の元へと向かうだろう。どうすればいい…どうすれば…。その瞬間、手を思いついた。一度限りの手を。だがそれは同時にあいつらに会えなくなる事を意味する。


「それでも…一の犠牲で大勢が救われるなら…いっか…」


やることは決まった。あとはやるだけだ。


「ネンス…すぐにお前のところにあの二人を連れてこよう。ここで待っていてくれ」


「あの一緒にいた異邦人はどうする?」


「あいつは私達の絆を断ち切った悪い奴だ。しかも今はユジルとソラをたぶらかしている。すぐにお前達のために処理をしよう」


無表情で話すクライムを見て、思わず鼻で笑う。


「ネンス…?」


「くたばれ…クソ野郎…」


瞬間、ネンスの体に証が駆け巡る。


「これはっ!?」


クライムが初めて驚きの声をあげる。

そうこれはさっき村長(クリム)がやった『ヴァジュラ・ドライヴ』、すなわち自分の身と引き換えの自爆技。


「ネンスお前っ!」


父ちゃん…あんたのおかげで俺は人並みに誰かを思いながら死ねそうだ…。ソラ…お前は泣き虫で、臆病だけどお前なら大丈夫だ…。ユジルには…言いたいことはねぇなぁ…やっぱいつも何でも言っといてよかった…もう思い残す事なんて…



そう思った瞬間、また三人で楽しく暮らせる未来を思い出して———


「ああ…やっぱ————」


先ほどのクリムレベル、いやそれ以上の爆発が村を包んだ。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





誰も声を出さない。ただ…ただ走った。

ただ前を見て俺達は目的の場所に走った。

後ろで起こった爆発の音になど気づくことなんてなくただひたすらに。見たくない。聞きたくない。俺とソラの顔は涙でぐちゃぐちゃになりながらも、いつもの道をひた走る。今だけはただ走ることだけに集中したかった。

異邦人の彼は慣れない獣道を辛そうな顔をしながらも必死に着いてきてくれた。それでも滝の様な汗と失速具合、もうそろそろ限界だ。道中、あいつがいつ襲ってくるか、警戒し続けたが、現れる気配はない。それを喜ぶべきか悲しむべきかはわからない。それでも足は緩めない。

途中異邦人の彼を抱えたりしながらも、息も絶え絶えながらようやく目的の場所へと辿り着く。




長い時間を走り目的の木の下に着いた時、安心感と体力の限界から俺の意識はそこで途切れてしまった————。













次に目を開けた時に俺はもう死んでいるかもしれない。————そんな事を思いながら意識を手放した事を覚えている。



目が覚めると目の前に飛び込んできたのは、綺麗な木目をした天井だった…。


「……?ここは…」


ケムリグサの森ではない。気がつくと俺はどこかの家のベッドの中にいた。



「ここは……一体……どこだ…?」














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